034


「分からない相手を無暗むやみに探していても、徒労とろうに終わるだけだろう。そこでだアルトくん、われに良い案があるのだが」


「案……って言うと?」


「われをだな、その、アルトくんのパーティーに加えるとかどうだろうか。世界の平和を望むわれらシスターもまた、魔王の行く手を追っている。た、多少は役に立てると思うのだ」


「よし分かった。今日からよろしくなフィイ」


「われのスキル性能を考慮こうりょしても足を引っ張ることは……いや、いま何と……」


 愕然がくぜんとするフィイに手を差し出す。


「ちょうど支援系しえんけいの職業は欲しいと思っていたところなんだ。できるだけ道中を楽に進めていきたいし、そうなるとバフは多ければ多いほどいい。レベリングの効率も格段に上がる。断る理由なんてないってことさ」


「そ、そうか……それなら良かったのだが、いや良かったというのはこっちの話で、何はともあれ、今日からよろしく頼むよ」


 フィイはしどろもどろに言いながら俺と握手を交わした。


 これで契約は無事に成立。彼女を俺たちのパーティーに登録した。


「それとアルトくん……差し支えなければ、フ、フレンド申請しても構わないだろうか」


「むしろ大歓迎だ。俺から送っておくから後で承認しておいてくれ」


「ありがと――ではなくて感謝するぞ、うむ。……さてそれでは二階へ案内しようではないか。きみたちのギルドへの登録も無事に完了した。これで正式に〝転職〟ができるだろう」


 ノルナリヤに来てはや二日、遂に待ちに待った機会が訪れた。


 まだ騒ぎの収まらない外野どもの群を抜けて、二階へ向かう。そこは礼拝場れいはいじょうとなっていて、奥の祭壇さいだんには見知った女神像が設置されている。

 

 ……ほぼ粉々になって原型は留めてない。これちゃんと機能するのかな。


 いざ像の前で祈りを捧げると見覚えのある電子パネルが現れた。


〝ようこそ冒険者さま。新たな力の獲得が可能です。転職を行いますか?〟

《YES/NO》


 どうやら無事に機能してくれたらしい。速攻でYESを選択した。


〝ご希望の職業を一覧から選択してください〟


《デストロイヤー/フェンサー/スラッシャー/シールダー/テンプラー/ホーリーナイト/ダークナイト……》


 転職先の職業は数多く、新人冒険者ならWIKIウィキを開いてどれにするか小一時間は決めあぐねることだろう。だが俺は既に転職するジョブを決めている。迷う必要はない。


「そう言えばアルトくんは奇妙なステータスをしていた。あれはスキル〝等価交換〟を使うためのものだったのか」


 ぽつりと隣でフィイが呟いた。


 どうしてファイターである物理職の俺が、魔力にステータスを振っていたのか。全体的に均等きんとうなステータス配分をしていたのか。それは等価交換を使うためじゃない。


 すべては隠しジョブを開放する、この時のためだ。


〝冒険者さまが転職するジョブは――レヴァーテインで間違いないでしょうか?〟

《YES/NO》


 続いてYESを選択すると、体が神々こうごうしい光に包まれた。そして祝福はすぐに終わり転職が完了する。


 俺が転職したジョブは〝レヴァーテイン〟剣と魔法の両刀を可能とする最強の職だ。


 名前は北欧神話の魔剣が由来となっている。剣でありながらその刀身に魔力をたくわえた魔剣名は、運営の遊び心でジョブ名として採用された。


 本来、物理職が魔法職のスキルを習得することは、それこそバグやチートでもない限りない。その逆もまたしかりだ。


 だがレヴァーテインだけはその奇跡を実現する。


 発生条件は転職時、ステータスの〝体力、筋力、魔力〟が均等に分配されていること。


 これこそが不可解なステ振りをしていた真相だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る