019


「スキル〝メテオウェーブ〟硬直時間500ms、発生速度200ms、射程距離レンジ15m、射程範囲剣先より前方に120度、スキル係数1.50、職業ファイターの基本攻撃スキル」


 特大剣の切っ先から放たれた衝撃波の詳細に触れながら、ダグニアの攻撃を回避する。


「な、なに、まさかスキルの特性を全て――いいやそんなの嘘っぱちだ!」


 ダグニアは両手で特大剣を大きく振りかぶる。それだけで次のスキルも看破かんぱできた。


「スキル〝ストライク〟硬直時間2s、発生速度500ms、射程距離レンジ25m、射程範囲剣先より前方に45度、スキル係数3.50、職業ファイターの高威力スキル、取得条件Lv30以上」


「てめえ、そんな馬鹿な――」


 モーションが大きく攻撃範囲が狭いスキルなんて避けてくださいと言っているようなものだ。たった一歩だけ横に逸れて、すれ違いざまに固めた縦拳たてけんを男のみぞおちにじり込む。


「がっ……」


 100ダメージと出た数値の直後、ダグニアは地面にくずおれた。まだまだHPが残っているのに、根性の無いやつだ。


「何だ、いまあいつ何をしたんだ!?」


「分からねえ、気づいたらカウンターを入れていたが、俺たちの知らないスキルなのか?」


 どよめく大衆は見当けんとう違いもいいところだ。俺はこの決闘でただの一度も〝スキル〟を使っていない。俺が使ったのはただの打撃と〝知識〟だけだ。


「違う、いまのは〝通常攻撃〟だ」


『つ――通常攻撃!!?』


 そんなことはあり得ないと、混乱の渦はさらに広がり、やがて周りは俺をチート扱いするようになった。理解できないものをすぐにチート扱いするのはMMO民の悪い癖だな。


「馬鹿が、舐めやがって畜生!」


 俺が〝舐めプ〟していることに気づいたダグニアは、よりいっそう凄みの帯びた剣幕けんまくで斬りかかってきた。


 だが繰り出す攻撃はことごとくDODGEドッジされ、通常攻撃をもらい、結果ダグニアはすぐに戦闘不能となった。地面に転がる大男の頭には、戦闘不能を示すヒヨコたちがピヨピヨと飛び交っている。表示されているHPの数値は0。これにて終戦だ。


「お、俺の負けだ、生意気言ってすまねえ……ゆ、許してくれ……」


 ダグニアの敗北宣言の後、辺り一帯はとめどない歓声かんせいに包まれた。


 さっきまで俺に敵意を向けていた奴らも、今じゃ驚きと賞賛しょうさんを送ってくる。まさか俺が本当に大男を倒してしまうとは思ってもいなかったらしい。


「な、なあ坊主、どうしてお前はそこまで強くなれたんだ? その秘密をどうか俺に教えてくれ」


 懇願するようにダグニアが言った。


 もう敵意や悪意も感じ取れないし、まともに対応してみるか。


「俺が強いのは、途方もない努力の積み重ねだよ。別に特殊な才能があるわけじゃない、ただ全ての職業の全てのスキルを把握してるだけだ。

 頑張ればいつかお前も俺みたいになれる。だからさ、もうやめろよ。街に来たばかりの冒険者をいびるより、お前にはやるべきことがあるはずだ」


「……ああ、まったくもってその通りだ。クエストを失敗する前、まっとうに努力してた時期が俺にもある。その頃から少し前が見えなくなっちまってたのかもな。すまねえ坊主、これからは真面目にやってみるよ」


「よし、その意気だ! 頑張れよダグニア!」


 一時期はどうなることかと思いきや、無事に握手も交わして、俺たちは平和的な終わりを迎えた。


 改心してくれたみたいだしこれで一件落着だな。もう新人冒険者をいじめることはないだろう。


 そう言えば武器を奢ってもらう約束があったけど……いいや。こんなところでもらった武器なんてどうせ使わないし、深く反省もしてるしな。


「嬢ちゃんもすまねえな、突然煽り散らかしたりしてよ」


「いいの、わたしも散々言っちゃったしお互い様だわ」


 二人もなかなかにいい雰囲気だ。やっぱり同じ冒険者仲間としてこうじゃなきゃな。敵対関係は何も生まない。


「ところで話は変わるが、坊主と嬢ちゃんは付き合ってんのか。見た限りずっと一緒にいるようだが」


「ちょ――ええ、はあ!? な、何を言っちゃってるのよあんたは!」


 咄嗟とっさに否定するコトハの顔は、爆発してしまうのではないかというくらい赤く染まっていた。


「てっきりそう思っていたんだが違うのか?」


「そんなわけないじゃない! し、知り合ってまだ間もないのよ、なのに付き合うだなんて、いくら何でも気が早すぎるっていうか――ねえあなたはどう思うのよアルト」


 どうして俺が面と向かって睨まれているのか釈然しゃくぜんとしない。そんなに嫌われているんだろうか。レベリングとか色々、俺なりに頑張っているつもりなんだけど。


「どうってそんなこと俺に聞かれても困る」


「た……確かにそうかもしれないわね。……いいわ、用事が済んだのなら早く行きましょ。魔王を倒すためにも次の街を目指さなきゃ」


 言うが早いか、コトハは俺の手を引いてアウラの外へと進んでいく。それを見て「大変そうだな」と笑うダグニア。確かに彼女の面倒を見るのは大変そうだ。目を離すと何をしでかすか分かったもんじゃない。


「まあなるようになるか」


 秩序の街ノルナリヤを目指して、新しい一歩を踏み出した。

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