008


 空が暗がりに覆われた頃合いになっても、俺たちのレベリングはまだ終わらない。


 もういくつLvアップの音声を聞いたか分からないけど、たぶん当初の目標であるLv30はとっくに越していると思う。Lvが1上がるごとの感覚がだいぶ長くなってきたし、ここの狩場もそろそろ終わりだな。


「見て見て、わたしこんなに強くなっちゃった。これならあの男を見返してやれるわ♪」


 コトハはステータスを確認して満悦まんえつそうにほくそ笑んでいる。


 俺たちのLvは……32か。確かあの大男は31だったから、この時点で勝利と言えば勝利なんだけど、僅差きんさで勝ってもあまり嬉しくない。やっぱり勝負は圧倒的格差をつけなきゃな。


「ねえアルト、もう暗くなってきたし早く帰りましょ。もう十分レベルは上がったもの」


「いいやまだだ――俺たちのレベリングはまだ終わらない」


「まだってどうして? もうとっくにLvを追い越してるのに」


「いいかあの手の輩は僅差きんさで負けても、絶対に自分の負けを認めない――だからここは大勝だ。あいつに格の違いを見せつけてやろうぜ」


「そうは言ってもバフがもう切れちゃったし、経験値もあんまり美味しくないし……」


 あまり乗り気でないコトハの意見は、正論だ。


 さっきのウェーブが終わった段階で俺たちに付与されていたバフは効果時間が切れ、更にはLvが30も上がったことで経験値的にも微妙。レベリングを続けるうまみはほとんど無い。おそらくはここで引き返すのが正しい判断だろう。だが、


「確かに経験値がマズくなってきた。そこでいい提案がある――更にもう一段階、上の狩場を回ってみるっていうのはどうだ。そこなら経験値のうまさが戻るはずだ」


「更にってそんな――」


 コトハは首を左右に振った。


「バフはもう切れちゃってるのよ。なのに更に格上のモンスターを狩るなんて無理に決まってる」


「確かに俺だけなら確かに無理だろう。でもなコトハ、俺たちはパーティーなんだ。お前の馬鹿げたステータスなら、きっとバフがなくても回れるはずだ」


「えっと、それってつまりどういうこと?」


 まだパーティーの強みをいまいち理解していないコトハに、告げる。


「俺にはHPがあって、お前には火力がある。つまりこういう時こそ個性を発揮する番だ。――俺がモンスターのダメージを受ける〝タンク〟をするから、お前はダメージを出す〝アタッカー〟をやれ。モンスターのヘイトは全て俺が買う。これで最高効率の狩りができるはずだ」


 そう言い放った後、コトハの口はポカンと開いたままになった。初めてパーティーの意味を知った彼女にとって今の一言はとてつもない衝撃であったようだ。


「アルト――あんたってもしかして天才なの!?」


 そして一転、気を取り直したお姫さまは瞳に並々ならぬ生気を宿らせて言った。


「まさかそれぞれに役割を持たせるなんて考えもつかなかったわ。そうよ、わたしは全てのステータスポイントを筋力に振ってるんじゃない。

 これならたとえ格上のモンスターでも余裕で倒せるはずだわ。いいえつまりこれは、この展開を見通した上でのステ振りだったってわけよ!」


 小柄な彼女は控えめな胸を張ってふんぞり返った。


 突っ込みたいところは鬼のようにあるが、やる気になったのでよしとしよう。


「俺たちが次に向かう場所は森の先にある湿地帯だ。湧きはここほどじゃないが、一体一体の経験値がまあまあ高い。次の狩りじゃ〝スキル〟を使うから習得しておけよ。流石に通常攻撃だけで倒せるような相手じゃない」


「スキル……ようやくファイターらしい派手な戦いができるってことね」


「言っておくが、今度こそは絶対に変なことをするな。習得するのは〝メテオウェーブ〟前方に衝撃波を放つスキルだ。お前の馬鹿げた筋力ならそれで一掃できるはず。他は取るなよいいか?」


「分かったわよ仕方ないわね」


 言葉とは裏腹に、またもやあれこれと電子パネルを操作しているコトハを睨みつけると、今度は大人しくメテオウェーブを習得するだけに抑えられた。


 彼女はマイナスな行動を取らないと死ぬデバフにでもかかっているのだろうか。


「それにしてもアルトって本当に詳しいわよね。わたしと同じLv1の冒険者だったのに、いったい何者なの?」


 コトハがいぶかしそうにジッと俺を見る。


 そう言えばまだ言ってなかったな。


 偉そうに語るほど大それた存在じゃないけど――明かしておこう。

 

「俺はただの元〝最大レベル能力値到達カンスト〟勢だよ」


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