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「ここがVRセンターか。何というかすごいという言葉しか出てこないな」


 俺がやって来たのはVRセンターという電脳世界にダイブできる公共施設だ。中には懐かしいアーケードゲームから2DアクションRPG、はてにはひと昔前のVRゲームなどなど、あらゆるゲームがところ狭しと並んでいる。


 俺が今日ここにきた理由は、次世代基盤VRMMORPGのADRICAアドリカをプレイするためだ。次世代基盤はこれまでの旧式と違って、意識だけでなく実際に電脳世界へ住むこともできるのだとか何とか。


 何でもこの世の全てはデータに変換できるため、ヒトのゲノム情報はもちろん味覚や嗅覚といった五感までもが電脳世界で再現できるそうだ。


 そんな目新しい技術にかれてVRセンターはオープン初日だというのに物凄い人が殺到している。


 ADRICA自体、世界中で超絶大HITしたMMORPGだからというのを差し引いても莫大ばくだいな人混みだ。子連れで来ている家庭も少なくない。


 もっとも、いくら電脳世界に行けると言っても、データは全て国が管理しているため、永住権えいじゅうけんを手に入れるにはかなりのお金がいるらしい。俺のような庶民は毎日コツコツと数時間プレイが関の山だ。


「予約していた安達あだち流斗るとです。次世代基盤のADRICAをプレイしにきたんですけど――」


 受け付けに行くと、おねえさんが直ぐに案内してくれた。


 エレベーターを上がった二十五階には、等身大のカプセル容器がびっしりと並べられていた。とてもゲームをする場所のようには見えない。まるで研究所のようだ。


「ご安心ください、初めは皆さん緊張なさいますから。中に入るだけで済みますよ」


 俺はよほど引きった顔をしていたんだろう。お姉さんがすかさずフォローしてきた。


「カプセルに入ると、お客様のデータが全てVR世界へと転送されます。そこでジョブや名前を決めて頂ければすぐにスタートできますので」


「便利なもんだな。帰ってくる時はどうしたらいいんだ?」


「視界の端には常にログアウトボタンがございます。そちらを押していただければ現実世界へ転送されるかと」


「それは親切設計だ。ありがとうお姉さん、俺頑張ってくるよ!」


「いえいえ。……ごゆっくりとお楽しみくださいませ」


 No572――予約番号通りのカプセル容器を開けて、中に入る。


 旧式のADRICAだと俺は世界で一位の座に君臨していた。対人での戦績、ID周回およびレベリングのRTAアールティーエー、装備のエンチャ値など、どれをとっても俺に敵う相手はいなかった。


 昨日も夜遅くまで旧式をプレイしていたせいか起きたら時刻は既に正午。ギルメンたちに大きな後れを取ってしまった。


 次世代基盤でも絶対に誰にも負けたくない。特にあの生意気な脳筋女には。……あとはまあチビッどもとか同級生の武術家とか。とにかく早くスタートしないと。


 プシュっと、カプセルの閉じる音と共に俺の意識は暗転した。


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