第2話

 はじめて会ったのは、夜の街だった。


 他の仕事仲間と組んで、いつも通りの巡回。学校のほうは出席だけとればいいので、日常のほとんどを仕事に費やしていた。正義の味方。街を守る仕事。


 夜の街に、見馴れない光景があった。


 若い女性が、男を引っ張ろうとしている。無理めの客引き。かなり強引に行っていた。


 この街の風俗は、行き場のない人間の溜まり場ではない。なぜかは分からないが、この街の性産業は圧倒的な人気業だった。芸能人としてテレビに出るより、この街でセックスレディや地五郎をするほうが難しい。そもそも、管区の許可がなかなか下りない。逆に言えば、下りるだけで凄いことになる。客も、ほとんどが同業者ばかりだった。犯罪の気配はまったくない。


 だから、こういう、異性を釣るのは、まったくと言っていいほど見かけない。


「俺が行くよ」


 女性の同僚を抑えて、自分が女性のもとへ向かう。


「おい。そこの。手を離せ」


 男を客引きするのに、胸ぐらを掴むなんて。わけがわからない。


「おい。女のほうだ。おい」


 女の拳が飛んできた。かわして、女性の同僚に目配せ。同僚が要領よく絡まれた男を逃がす。


「ほれ。こっちだこっち」


 煽ってやる。拳がまた飛んできた。避けずに、顔で受ける。傷すらつかない、弱い拳だった。たぶん、殴った女のほうが痛い。


「この街で男漁りとは。肝が据わっているな」


 女。今度は回し蹴り。顔に飛んでくる。いい身体の移動具合だったが、やはり威力が足りない。避けずに受ける。傷もつかない程度の、弱い蹴り。彼女のスカートがめくれる。何もはいていない。


「んぅ」


 スカートの中を見られたことに気付いて、女が脚をどける。顔を真っ赤にしながら、走り去っていった。


「変なやつだったな」


 女性の同僚が戻ってきた。


「男のほうから、何か聞けたか?」


 女性の同僚。きょとんとした顔。


「いや。さっきの、女に絡まれていた男。逃がしただろ?」


 記憶にないと、言われた。


「監視カメラ」


 通信を入れる。監視カメラ。


『はいはい。なんですか?』


「遡って、映像出してくれ。というか、見てたか?」


『え。なにが。ずっと見てたけど、何も起こってないぞ』


「女は?」


「女?」


 見えていないのか。

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