第42話 わたしのうんめいのひと
「黙っていないで何とか言ったらどうなの? アタシは早くアンタを倒したくてうずうずしているわ! 諦めて勝負しなさい、この凶悪劣悪極悪犯罪者!」
「それもう正当な手段として暴力を振るおうとしてませんか!? 誤解ですよ! それにご主人様はとっても優しい人です! 凶悪なんかじゃありません!」
「なんですって? ん、アンタその角と尻尾、もしかして竜族? って、アンタまさかあのダメダメなクロンなの!? ……まさかアンタ、無理矢理この凶悪劣悪極悪最悪犯罪者に従わされて!」
クロンがなんとか誤解大爆発中なプロメを制止させようとするが、より状況が酷くなってしまったようだ。それに何だか俺の呼び方が段々と酷くなっていっている。
凶悪、劣悪、極悪とか言葉を並べて、いつの年代のどんなセンスだよと色んな不安要素で頭を抱えそうになってしまう。
「違います! 私は自分の気持ちでこの人をご主人様と呼んでいるんです!」
「は? 誇りある竜族が卑怯者の人間に従うですって? なに馬鹿なこと言ってんのよ」
「あっ……!?」
すっとプロメの目が座り、その声音も急激に冷えたものへと変わった。どこまでも冷たくて、冷酷で、汚物を見るような目つき。それが怖がりな一面を持つクロンを強烈に射抜く。
たじろいでしまうクロンだったが、その場にしっかりと踏みとどまって反論してくれた。その心がどこまでも嬉しく感じる。
「ウルティを人質にとるような卑怯者に従うなんて、竜族なのに落ちぶれたわねクロン。いや、元々落ちこぼれだったわね。根性だけはあったけど。今この場でその腐ってしまった性根を叩きなおしてあげようかしら?」
「だから誤解なんです! ご主人様、アサヒさんは卑怯者なんかじゃありません! ああもう、プロメはこれが正しいと信じたらその方向に全力投球なんですから! 違う方向で落ちこぼれでしたよプロメも!」
何だ? もしかしてこの二人、知り合いだったのか? それはそうとして段々と二人はヒートアップしていき、ついには誰にも止められなくなってしまう。
二人の間で火花が散り、緑と赤色の小さな発光体が発生し始めてしまうほどに。いや、なんだあれ?
「全力出しても成功できないアンタに言われたくないわよ! マヌケ!」
「間抜けはプロメです! そもそも間違った方向にいっつも突き進んで間違えるんですから! ていうか方向音痴で人の話聞かないくせになんで探偵なんてやっているんですか!」
「ええアタシは方向音痴よ認めるわ! でもアンタは人生音痴ですけどね! 成功を体験すらできはしないアンタより断然マシよ! ポンコツドラゴン! 略してポンドラ!」
「なぁんですってぇ!?」
「やんのか、あぁん!?」
メンチを切りながらより盛大にさらにヒートアップしていく二人。心なしか、二人の周囲が燃え上がっているように見えて……見えて?
「ウゥウウウウ!」
「グルルルルル!」
「本当に燃えてるじゃないか!? うわっ、あっつ!?」
ぽわぽわと浮かんでいた発光体たちはいつの間にか現象としての形を持ち始め、緑のエフェクトがかかった風と赤いエフェクトの炎の揺らめきとなっていた。
たぶんあれは魔法なんだろうけど、風で新鮮な酸素が運ばれて、炎が竜巻みたいに勢い良く燃え上がっている!? そばにいるだけで熱い! ていうかこんな人ごみの中で威嚇のために魔法使っているのか!?
それに、これだけ炎がでかくなると。辺りに燃え移って被害が――
「いだだだだだ!?」
「頭ががががが!?」
と、思ったところで風や炎を出現させていた魔法はぱっと消滅し、クロンとプロメの二人は頭を抱えて苦しみだす。
あっ、そうか。魔法が暴力レベルにまでなったことで、天からペナルティが落ちたのか……
この世界に働く二つの呪いにも似た魔術である、カード化の呪術とペナルティ。肉体的な暴力が振るえないというのは幸福だと思いつつ、改めて恐ろしくも感じた。
相手を閉じ込めて無理矢理勝負させる
「ふたりとも、らんぼうはだめ。こういうときは、こんふりくとでけっちゃく」
膝をついて、かき氷を大量にかきこんだような表情になっている二人の間に、ウルティが割り込むように入ってきた。
ウルティという幼女の前でカッコ悪いところは見せたくないのか、顔を少々ひくつかせながらもプロメはすくっと立ち上がる。いや、勝負に勝ったようにドヤ顔しているけど、もう十分カッコ悪いところは見たから……。
「アサヒとか言ったわね! このアタシと勝負よ! 卑怯な手口を使えない
「ぷろめ、わたしがやる。うんめいのひととやらせて」
「そうそう。ふっ、巷を騒がせる吸収事件の解決者はやはりウルティ――はっ?」
急にウルティが俺の前に踏み出して、プロメの表情が凍った。いや、俺も凍った。
あんな激しいブレイク・コードでの戦いを、この年端も行かないウルティがやる? こんな和服幼女と戦うなんて冗談じゃないと俺はウルティの目を見つめ返すけど、彼女の目はまっすぐに俺を見ていた。本気だ……。
「えっ、いや、ウルティちゃん? ウルティちゃんにはちょっと早いんじゃないでしょうか? それにご主人様はとっても強いですよ?」
「むぅ。わたし、そこまでこどもじゃないし、なさけはふよう。こんふりくとも、つよい。つよいうんめいのひとについていくのが、うらないにでていたこと」
「ご主人様、ウルティちゃん聞く耳持ってませんよぉ」
クロンが膝を曲げて同じ目線になって説得するも、ウルティは腰に両手を当てて仁王立ちのポーズだ。完全にやる気になってしまっている。
「じょ、冗談じゃないわよ。アンタと凶悪犯罪者を戦わせるわけないじゃない! コイツが占いに出てた、ドラゴンを連れた運命の人だとでも言いたいの? あり得ないわ! わがまま言っていると今度こそご飯抜きよ!」
「ぐぅ! ごはんぬきでも、まけない!」
「ウルティがご飯抜きに耐えた!? 嘘……本気なの!? ウルティ!」
目じりに涙を浮かべつつ、こっちを必死の形相で睨むウルティ。
いや、涙流すほどに辛いのかよ……。それに俺は女の子の涙には弱い……。ならべくクロンにも弱い力で戦ってもらうに
「え、えーっと。じゃあプロメの代わりに君が戦って、俺が勝てばこの場は無かったことにしてくれるということでいいのかな?」
「かったらわたしがあなたについていく! うらないどおり! まけたら、ろうごくにぶちこむ! よわいひとはうんめいのひとじゃないし、それにゆうかいはん!」
「いや勝っても連れていかないし俺は運命の人じゃないし、牢獄にぶちこむとかめっちゃ怖いこと言ってるぞ!?」
なぜか勝ってもお荷物が付いてくることが確定してしまったんだが……。
プロメは鬼を思わせる獄炎の如き顔で睨んでくるし、ウルティはやる気になってしまっているし。それに周りの見物人たちは
「にげないでね? わたし、とてもつよいよ?」
赤い、赤い、切り裂かれて舞い散った鮮血の如き瞳の色。
見物人たちからもう一度ウルティに目線を戻した途端、重い岩石が背中に乗っているのかと思うほどのプレッシャーが俺を襲った。さっきウルティと出会ったばかりの時にも感じたプレッシャーだ。
……もしかしてこの幼女、とても強いのか?
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