第2話 カードゲーム世界スタンバイ!?
「びえええええ! 私いらない子なんですかああああ! ハズレアなんて存在価値ないんですかあああ! びええええん!」
「なっ、えっ、ちょっ! ゴメン! わからないけどゴメン! ハズレアなんてないぞ、みんなその価値に気づいていないだけだ! と、友達も助けてあげるから!」
泣き声めっちゃうるさっ!? ていうかなんで泣くの!?
髪も服装も緑色の少女は、涙を滝のように流しながらわんわんと泣き叫ぶ。
さっきから何がなんだかわからないけど、俺がこの子を傷つけることを口にしてしまったことは確かなようだ。
しかしハズレア? ハズレアでなんで泣くんだ?
ハズレアってレアリティが高いカードなのに、性能が悪いことを示す言葉だぞ? 希少価値の割に弱いということだ。
「ぐすっ、ぐすっ。ハズレアでも価値に気づいたら、デッキに入れてくれますか?」
「え? いや、うーん……どうだろ」
「びゃああああん! やっぱり私いらないレアなんだああああ! びええええ!!」
「だから何で泣くの!? 友達に助けが必要なんだろ!? 俺にできることなら何でもするから!」
大声で泣く少女に焦った俺は、つい魔法の言葉「何でもするから」を言ってしまった。
泣いていても相手の声はちゃんと聞き取れる僅かな余裕はあったのか、少女はうるんだ目で不安げに俺を見つめる。
「わ、私の友達を助けてくれますか……? ぐすん。あとっ、ハズレアでも存在価値は、ありますよね?」
「お、おう」
擦って赤くなってしまった目には弱い。特に、女の子が泣いているというのであればなおさらだ。
赤い角やどこぞの魔法少女みたいにも見える服装はコスプレみたいだが、本気で泣いているように感じる。
ただそのギャン泣きを信じた結果として、何に巻き込まれているのかもわからないままに面倒事を受け取ってしまったようだ。
「あ、ありがとうございます! えとっ、私は竜の……いやっこれ言っちゃダメなやつ! だから、えっと、友達が悪い商人に捕まっていまして、なんでかっていうと、そのぉ……」
「落ち着いてくれって。ゆっくりでいいから。警察が必要な状況なのか?」
「けいさつって何ですか?」
「は? いや、警察は警察だろ……あ、異世界だとすると警察はないのか?」
「けいさつ……わからないです。と、とにかくですねっ。あーもう! 言っちゃえ!」
少女は意を決したようだ。何か喋ったらまずい状況になるものでもあるのだろうが、息をスッと吸い込んで起こった出来事を話し始めた。
「私、クロンっていいます。こんななりですけど、実は竜族です。レ、レアだからと言って無理矢理カードにしないでくださいね!?」
りゅ、竜族? 竜ってあのファンタジーに出てくるドラゴンのことだよな?
俺より一回り背が低くて、可愛らしいフリフリがついた服を着た、人畜無害そうなこの子がドラゴン?
「それで、私の友達も竜族で……そのぉ、とてもレアで美人なので、悪い商人に捕まっちゃって……あぅ」
「あっ、そういう設定はいらないんで」
「設定!? 設定じゃないですよ! ほら、尻尾に角! 私はきちんとした竜族です!」
俺の目の前にいるクロンという少女は後ろを向き、腰の後ろに生えた長い緑色の尻尾をゆらゆらとさせた。
さらにボサボサ気味の髪を手で押さえ、頭に生えた赤い二本角を強調させる。
……これ、本物なのか? よくできた偽物なのか? そう考えた俺は、ゆらゆらと自慢げみたいに揺れている尻尾の先を掴んだ。
うん、柔らかくて血が通っているのか仄かに暖かい。それに鱗がすべすべしていて、エメラルドみたいで綺麗だ。
「わっひゃあ!? 何するんです!? 敏感なんですからいきなり掴まないでください!」
「ご、ごめん」
どうやらクロンにとって大事な部分だったみたいだ。俺の手から勢いよく尻尾を引き抜き、ぷりぷりと怒り出す。
泣いたり怒ったり本当に忙しい子だな。
ああ、しかしもう本当に混乱してきた。
急に知らない場所にいたと思えば、腰に持っていないはずのデッキが付いてるし、左腕にもなんか機械が付いてるし、竜って名乗る少女がギャン泣きしてくるし。
いくらなんでも冷静に分析できなくなってきた。
「もうっ。それでですね? 竜族がレアだからって悪い商人が私の友達を捕まえたんです。私は何とか助けを呼びにその場から逃げ出せたんですけど……早くしないと、リームが無理矢理カード化されちゃう……」
カード化? これまた変な言葉が飛び出してきた。人間をカードに変換するということだろうか。
「ちょっと待ってくれ。悪い人に捕まったってのはわかった。だけど、カード化って何?」
「カード化の呪術を知らないんですか?」
意外だというようにクロンは目を見開いた。どうやらこの辺りでは一般的なことらしい。
実は俺異世界から来たんで、この辺りのことを知らないんだと言っても信じてくれる可能性は低いだろう。
遠い場所から来たから知らないんだとか言ってごまかして、情報を聞き出すのがいいか。
「あー、ごめん。俺、東の田舎から来ててさ、この辺りのこと何も知らないんだよね」
「そうなんですか? あれ? でも、うーん……えーっと、カード化の呪術というのはですね、遠い昔に強い
一呼吸おいて、本当は言いたくないであろうことをクロンは口にした。
やはり俺は、ブレイクコードというゲームの世界に転生してしまったようだともう一度確認する。
「私と友達は竜族なので、これにあてはまってしまって……」
なるほど。人間とは違う竜族とかいう生物だから、その胡散臭い呪いに当てはまってしまうと。
しかし、カード化の呪術の話を聞くと、ある恐ろしい考えが浮かんでくる。
もしかすると、永遠にカードの中に閉じ込められてしまうのではないかと。
「もしかして、カード化されたらずっとそのままになっちゃうのか?」
「あっ、それはないですよ? 契約を結んでも、きちんと自分の意志でカードから戻ることはできます。まぁ、主人の命令は聞かなきゃならないんですけど……」
所有者の命令を聞かなければならない。まるで奴隷として扱うみたいじゃないかと、俺の中に嫌悪感が湧いた。
嫌がっている女の子に無理矢理命令するなんてやっちゃいけないことだ。ましてや人を所有物にするだなんて。
「それで、もう一度お願いします! どうか、どうか
他に助けになれる人がいるかもしれないけど、その人を探しに行っている時間はないようだ。
それにここは森の中。他の人がいる可能性は低いし、近くに集落や町があるとも限らない。
今この場でリームという少女を助けられるのは自分しかいないんだと、俺はそれを実感した。
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