スキル覚醒③
宿の件はひとまず保留して、僕たちはオベリスクを乗り継いでウェダー遺跡に足を運んだ。
ウェダー遺跡はドラゴニュートのラハフ族が神聖な場所と崇めているだけあって、厳かな雰囲気に包まれていた。
一目見て、大切にされているのが伝わってきた。
「ここがファハド様の生まれた遺跡なのですね。しっかりと目に焼き付けておかないと」
バラカは平常運転だった。
「お兄ちゃん、何か思い出せそう?」
「いや、遺跡の中で生まれたなら、外観を見ても何ともだね」
「あ、そっか!」
レイラはぽかっと自分の頭を叩いた。
「ちなみに、この遺跡に試練はないよね?」
僕は念のために訊ねた。
「はい。試練の類は感じ取れません」
「それじゃあ、ぱぱっと遺跡の中を調べちゃおうか」
「おー!」
ウェダー遺跡は出入り口が一つで、内部の構造も非常にシンプルなものだった。
一本の太い通路があり、そこにいくつもの小部屋が引っ付いている感じである。
(サツマイモっぽい)
地図を見た僕はそんな感想を抱いた。
「ファハド様はどちらのお部屋で保護されたのでしょうか」
「う~ん、保護された時の記憶もないからなぁ……。とりあえず全部の部屋を見て回ろうか」
「そうですね」
一つ目の小部屋は、部屋のあちこちからブロックが飛び出しており、凸凹していた。天井も高かった。まるで、上に上れといわんばかりの部屋である。
猫はこういう部屋が好きそうなものだが、ムルは特に関心を示す様子はなかった。
二つ目の小部屋はお椀のようになっており、中央の溝に岩の玉がはまっていた。
岩の玉の大きさは直径50センチくらいあり、とても一人ではとても持ち上げられない大きさである。
「レイラ、岩の下には何かありますか?」
バラカは軽々と岩を持ち上げてみせた。
「溝には特に何もないー」
「残念。それにしても、懐かしいですね」
「うんうん」
「二人ともこれが何か知っているの?」
「はい。私たちの訓練に使用された建物と同じ作りをしています」
「誰が最後まで溝に岩をはめないか競争して、バラカお姉さまが一番だったよね」
レイラは楽し気に思い出を語った。
「レイラ、ファハド様の前でその話はあまりしないでください」
バラカは顔を赤くしていった。
「ははは。つまり、ここは訓練施設の一つに使用されていたってことかな?」
「そのように見受けられます」
「僕はどこの部屋で発見されたのかな。でも、カミールも特に何いってなかったし、詳しくは書かれていなかったんだろうね」
カミールが伝え忘れた可能性については考えていなかった。そんな初歩的なミスをするようなタイプではないからだ。
そうして、三つ目の小部屋を覗いた瞬間、僕は脳天を撃ち抜かれたような衝撃に見舞われた。
「あれ、体に力が……」
「ファハド様!」
「お兄ちゃん!」
僕は不思議な夢を見た。
大きい広場には数万の兵士が所狭しとひしめき合っていた。
兵士らは一様に拳を突き上げ、けたたましく吠えていた。その咆哮に大気が揺れていることは感じたが、音は何も聞こえなかった。
僕は建造物の上からその様子を眺めていた。
どうやら、僕はこの大軍を率いるファラオのようである。
傍らには少し大人びたバラカ、レイラとカミールの姿は見当たらなかった。代わりに、筋骨隆々の大男やら目が隠れるくらい眉毛の伸びたお爺さんやらが佇んでいた。全員が歴戦の
僕は大人版バラカに促され、壇上へ上がった。
熱を帯びた兵士たちが、一斉に口を噤んでこちらを見上げた。
数多の視線に晒されたが、夢の中の僕はまったく気圧されることなく、堂々と胸を張って演説を始めた。
演説の内容はわからなかったが、何となく兵士を鼓舞しているような気がした。
やがて、演説を聞き終えた兵士らは広場から続々と出陣していった。
「んん……?」
僕の意識はゆっくりと覚醒した。
「ファハド様、ご無事ですか!?」
「お兄ちゃん、どこか痛いところとかない!?」
「にゃーん(早くその汚いものを仕舞って)」
「バラカ、レイラ……、どうして僕は裸なのかな?」
夢のことよりも、僕は自身の珍妙な恰好について触れずには居られなかった。
「お体に異常がないか調べていたのです」
「そうそう、別に変なことなんてしてない」
「そういわれると反って不安になるよ!」
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