猫派⑦
遺跡から宿に帰った僕たちは、今後の方針について話し合った。
やはり、遺跡にムスタラが居なかったのが皆の中で相当に引っかかってる様子だった。
「主はこれまで通り、冒険者ギルドを支配するための活動を続けてください。その傍ら、ダンジョン各地に点在する遺跡の試練を突破し、少しでも多くの戦力を増やしてください」
「崩壊の日までにどれくらいの戦力を整えればいいのかな」
「私たちも直接その戦いを目の当たりにしたわけではないので、断言はできませんが、前回の戦いでは十万人規模の兵はあったそうです」
「十万かぁ。全ての冒険者を合わせても届かない数字だね」
「数が足りないなら、質を上げましょう! 一人一人が一騎当千の力を付ければいいのです!」
「バラカお姉ちゃんって時々馬鹿みたいなこという」
「そんな悪いことをいう口はこれですか~?」
「ふぇええ~」
バラカはレイラの頬っぺたをびよーんと伸ばした。
柔らかそうだ。
「一人一人の戦力の底上げか」
僕だってほんの少し前まではブロンズ級冒険者だったが、今ではシルバー級に昇級することができた。
その大きな要因は、呪い装備を着用していることである。
同じ要領で、力を持たない冒険者に呪い装備を着用させれば、僕と同レベルまで力を引き上げることはできるだろう。
しかし、呪い装備の最大の難点は、いざ手に入れようと思うと、とても入手し辛いことだった。
何せ、呪い装備を着用している冒険者はそれを隠すか、この世界を去ってしまうからである。
「ファハド様、何か妙案でも思い付いたのですか?」
バラカは目敏く僕の様子に気が付いた。
「どうにか呪い装備の情報を集められないかなと思って」
「探し物だったら、カミールお兄さまの出番」
「呪い装備ですか、骨が折れそうですね」
カミールは渋面を浮かべた。
「やっぱり厳しそうかな」
「いえ、我が主が望むのであれば、是が非でも手に入れましょう。――」
カミールは左胸に手を当て、
「――ところで、ダンジョン都市ガリグの地図はお持ちでしょうか?」
「ううん、普段は持ち歩いてないけど、何に使うの?」
「ダンジョン都市ガリグにある、冒険者ギルドの施設の位置を知っておきたいと思いまして」
「冒険者ギルド?」
「はい。冒険者ギルドの機密情報を盗み出せば、より効率的に、より安全に支配することができるはずです。元々、我がテウルギアは単独行動、諜報活動に向いていますので、尻尾を掴ませるようなへまは致しません。たとえやつらに捕まり拷問を受けることになったとしても、傷みや薬物程度では口を割らない訓練も積んでいるのでご安心ください」
「その発想が不安だよ!」
「探し物ついでに探りを入れるだけです」
「ムスタラの遺跡のこと? う~ん、冒険者の活動記録は部外秘になってるから、それ以外に調べる方法はないのかなぁ」
「それならファハド様にべた惚れしているシャザーに頼めばいいではありませんか」
バラカはいいことを思い付いたと手を打った。
「べた惚れって……。シャザーさんにお願いしても迷惑だろうし、それに多分無理だと思う」
「なぜでしょうか」
「僕たちがいつも足を運んでる冒険者ギルドは南支部で、本部はピラミッドの北側にあるからね。シャザーさんは冒険者ギルドの従業員だけど、呼び出されてもいないのに本部をうろうろしてたら怪しまれると思うんだ」
「それは確かに怪しまれてしまいますね」
「よし、カミールにはムスタラの遺跡の件と呪い装備の調査をしてもらう。もし冒険者ギルドの人に見付かったら、僕の名前を出してもいいから、絶対に暴れちゃダメだからね」
不法侵入ならきつーいお叱りで済むかも知れないが、怪我人を出してしまったら冒険者を続けられなくなってしまう。
「寛大なご配慮、痛み入ります。何か判明し次第、報告へ戻ります」
こうして、カミールは隠密活動のため、僕たちとは別行動を取ることになった。
カミールが冒険者ギルドの本部へ潜入している間、僕たちは遺跡の攻略をするわけだが、一つ確認しておかなければならないことがあった。
「ひょっとしてだけど、全ての遺跡に誰かが入ってたりするの?」
ずっと聞かなければならないと思いつつ、今の今まで放置していた質問である。
なぜなら、バラカたちの返答次第では、とても面倒臭いことになるからである。
「いいえ、遺跡は千年よりも前に建てられたものあるので、全ての遺跡に試練があるわけではありません」
「でも、どの遺跡がレイラたちの後に建てられたかなんて覚えてないよね」
「私もまさかすべての記録が失われるなどとは思ってもいなかったので……」
「いやいや、こんなにたくさんある遺跡を覚えている方が無理な話だよ。それに遺跡の数だけ試練がないとわかっただけでも大分気が楽になったよ」
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