ジゴク・ファイヤー・ガソミソガールズ

しゃけ

第1話 プロローグ

 ここは日本橋歌謡ホール。

 所在地・東京都千代ノ区東の内二-三。収容人数一四四七一人。開館日一九二四年九月十五日。すべてのミュージシャンの聖地とされる由緒正しき会場だ。

 ――だが。

 二〇二四年九月十五日。ちょうど開館百周年となるこの日、シンガーでもバンドでもアイドルでもない、自分たちをミュージシャンと考えないものたちが初めてその舞台を踏む。

 客席は開演前から超満員。空席はまるで見受けられない。客層はド派手なコスプレのような格好をしたバンギャや、北斗の拳のザコキャラのような男が半分以上を占めるが、意外とおとなしそうな少年少女も多い。いずれも今か今かとヤツらの登場を待ちかまえていた。


 ――やがて。ステージがせり上がり本日の主役たちが姿を現す。


 客席は一瞬にして沸騰、そして大爆発。

 現れたのは顔面に悪魔のようなメイクを施し、奇怪な衣装に身を包んだ三人の少女たちだった。一般にセンスのあるファッションとはいえない。だが独自性だけは凄まじい。

 そしてヤツらが手に持った『楽器』がまたひどくぶっ飛んでいた。

 中央に立つ白衣を着た女が両手に握っているのは『花火』。ふつうの手持ち花火を想像して貰っては困る。彼女が持っていたのは野球のバットを三本束ねたくらいの太さと長さのある代物で、ほとんど火炎放射器のような勢いでゴオオオ! と音を立てながら虹色の火花を噴射していた。客席にもガンガン飛び散らせて笑っている。やばい女である。

 その左に立つセクシーな女は両手にサブマシンガンと思われる銃器を持っていた。まさかモノホンではないと思うが、まるで遠慮なく天井や客席に向かってぶっぱなしている。他人に銃口を向けながら顔には幸せそうな笑顔。サイコな女である。

 残りの一人、金髪のチビ女にいたっては焼肉屋にあるような七輪をドラムセットでも並べるようにステージに配置して、そいつのボディを巨大なトングで激しく叩きながら、グロテクスな内臓肉を網の上で焼いていた。そんな異常行動を眠ってんのかってくらいの無表情で平然と行っている。おもしれー女である。

 その結果として。凄まじい音波の風が会場に吹き荒れた。彼女たちが発する音には明確なメロディーやリズムはない。本人たちの言う通りそれは確かに音楽ではなかった。ただの騒音と言ってしまえばそれ以外のなにものでもない。しかし。なぜか耳をかたむけずにはいられない。

 ――だがこれはまだまだ序の口。彼女たちのやっていることは音楽ではないが、その主役はやはり『人間の声』だ! 中央の少女がマイクを握り、そして叫ぶ!



【ジゴク・ファイヤー・ガソミソガールズ】


凝灰色の天国にさす月光

ほそび出る蛇光ネコ

階段なんてもうどこにもなかった

現れしは激薬! それと戦争と内臓

三脳一体のサイケデリック・ソドム・ファイヤー


NO.1! Dr・HELL!

お顔はブス!

NO.2! MACHINEGUN!

こいつもブス!

NO.3! GROTECS!

もちろんブス!

嗅げよ薬物(くせーんだよ)

ひびけよ銃声(うるせーわ)

焼けよ内臓フルコース(いいにおい)

ヒアカムザJ・F・G・G!

食らわせろ! ジャパニーズシャウト!

ジゴク・ファイヤー・ガソミソガールズ!

この言葉に意味なんてねえ!


全員ブス! 全員ブス! 全員ブス!

ひとり残らずアギトが爆発!

全員ブス! 全員ブス! 全員ブス!

吐けよザクロ 燃やせよガタロ

全員ブス! 全員ブス! 全員ブス!

さあ叫べ! 天国への蛸糸

全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス!

全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス!

全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス!

全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス!

全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス!

全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス! 全員ブス!

 過激なパフォーマンス、爆発するような演奏、そしてなによりその攻撃的で怒りに溢れた『コトバ』に観客たちは異常なまでに熱狂し暴徒と化していた。やたらめったら跳び跳ねて着ていたTシャツを破り捨てる、奇声を上げながら隣のヤツを殴る、前のヤツの髪の毛を食う、自分の陰毛に火をつける、中には自分の体の関節という関節を外しまくってるヤツまでいた。とてもシラフとは思えない。ビールくらいじゃこんなことにはならない。ヤツらがやたらめったら床を踏み鳴らすものだから、会場全体が比喩ではなく本当に揺れる。もう会場は一〇〇年の歴史に幕を閉じるかもしれない。


 ――しかしなあ信じられない。

 本当に信じられない。

 こんなひどいコトバをまさか僕が書いたなどとは。

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