温室育ち

荒川 麻衣

第1話

Listening to PSI-missing


わたしは芸能人ではない。

芸能人とはテレビに恒常的に

出ていて全国的に知名度があって

人気があってファンレターをもらい

公演のたびに花束をもらう人間を


わたしはけしてそう言う人間では

なかった。


だがしかし、世の中には、

芸能人は頭がおかしい、という人間がいる。


そりゃそうです。


世の中、たいがいの人間は

人前で芸を披露したりしない、

人前で歌ったり踊ったり

演技したり大袈裟な身振りをしたり

注目をあびようとしたりしないわけで

そう言うことをすれば待っているのは

謎のカテゴリ、分類分けにより

アイドル、エンターテイナー、

芸能人としての扱いを受ける。


話は変わるが、わたしはテレビに出たことがある。


のぞむべくしてなったわけでなく、

今で言うところの推し、好きな芸能人目当てだったが、

現場の人は必ずこう聴いてきた。


「北村一輝目当てですか」


え、どこにいたの?


「綾瀬はるか目当てですか」


悪いがあいにく目当ては大塚千弘でね。

無名で仕事できない以上、

交通費が自腹で約束と違う寒い中、

横浜の女子校で待機。

帰りは真っ暗で寒かった。

セーラー服は異常に寒い。

女子高生マジで尊敬だわ。


エキストラにベンチコート、

暖かいものは全くなかった。


セリフはないとはいえ、水戸芸術館ではかなり破格の扱いを受けていた。


あ、ゴミと一緒だな、って思った。


モブでしかない。

主役より目立ってはいけない。


名優はトラがうまい。


トラはビジネス用語、要するに一部でしか通じない符丁、キーワードでした。


エキストラのことだ。

エキストラが画面を支配する。

よい映画にはよいエキストラがいて、

エキストラの演技なくして

画面は成り立たない。


しかしながら、最初のドラマ撮影は、過酷だった。


横浜はこんなにも寒いのか!!


鶴見区の高校は、茨城県立水戸第一高等学校とは寒さがわけが違う。

たたきつけるように風が入り込んでくる。

何というか、遮るものがない。


平地とはいえ、えーと、なんで茨城より寒いんだ??


と、寒さに震えながらいたら、

撮影は当初の2倍を超えていた。


段取りも悪い。


とんでもないところに来てしまった、

と後悔した。


お弁当もない。暖かいお茶もない。


ここまでひどい扱いなんだ、と思った。


これでその後芸能界をものすごい勢いで勝ち上がっていけば物語として面白いのだが。世間は、そして、芸能界は、うつ病持ちには非常に厳しい世界だった。


何をするにも、フリーの場合は、

オーディションにひっかからなければ

意味がない。


出たいミュージカルのオーディション、

友達の協力を得て出した履歴書は

なしのつぶてで、完全にこれ、

書類で落ちたな、と。


水戸の芸能界では。それなりに

知名度があっても、情け無いことに、

東京では、自腹で交通費を稼いで、

稼いだアルバイト代でエキストラの

現場に食い込むぐらいしか出来なかった。


それでも、クズだったわたしは、

同年代の女優さん、役者さんの

活躍がねたましく、

テレビすらろくに観られなかった。


クズにもほどがある。


だから未だに、傷がうずくのか、

まともに見る事すら難しいことがある。


結局、自分で事務所を探さない、

朝になったら起きられない、

マネージャーがいない、

そんな無名でサボり屋には、

東京の芸能界は冷たかった。


そもそも、東京とは、徹底的に

水が合わなかった。


本当は京都の大部屋女優になりたかったし、京都の芸能界に行きたかったし、

京都の撮影所で京都に行って本格的に時代劇の撮影とか体験してみたかったな。


全部、コロナ禍の今では敵わない夢だ。


全部、夢のまた夢だ。


あのまま芸能界にいたら成功していたかもしれない。


もしかしたら、東京に居続けることができていたかもしれない。


きっとこれから、死ぬまでわたしは、

エンタメ業界に金を払って搾取されて、やりがいを得るためにお金を払い続けて、チケット代も一銭も出演料もいただくこともなく、一生を終えるのだろう。


そんなのは嫌だ。


複雑なのは、2011年3月11日、

あの日に永久に芸能界に見切りをつけて、それからずっと芸能界から

逃げ回り続けてたどりついた先が、

芸能界だったという。


しかも、このコロナ禍で、舞台に出る、出たい、もう無理、芸能活動しないで生き続けることをあきらめてしまった。


頭がおかしいって自分でも思うよ。


でもわたしは、根っからのギャンブラーなのと、死ぬか生きるかわからない、生き残れる保証がない芸能界というこの業界が、芸能人という業種、稼げなくてパワーハラスメントといじり、性的虐待、時には照明が落ちてきて死ぬこともあるこの舞台がたまらなく好きだ。


斬られて仮死状態になり、

斬り手に殺されてまた息を吹き返す、

死人として生きるあの瞬間、

死んでからまた叩き起こされて

また生き返らせて稽古に付き合って

下手な奴が上手くなって面白く

意識が飛んで自分でもよくわからない

ことになって気がついたら幕がないけど

終わりを迎える。


あの瞬間がたまらなく好きだ。

知名度のない水戸市民のわたしは

一生、ACM劇場の黒い場所から

抜け出す事なく、一生を終え、

そして、この劇場と一緒に心中するのかもしれない。


いい加減、2.5次元のとびきり若いのが

後輩としてきてくれないかな。


自分で自分に「ACM劇場に最初に立つテニミュ俳優は誰だろうか」


考えていたメンツは来なかったが、

まさかの大好きな、いや、マジ

テレビに出た、戦隊モノの人が

水戸に来ると聞いた時は、

ぽかん、となった。


嘘だろ?


横浜アリーナ、何人立ったんだよ?


その中から。


テニミュファーストキャスト総勢何十人の中でこの人が来るとは思ってもなかった。


細貝圭が一番乗り。


テニミュキャストって、大勢いるし、

くぐりぬけるのはこの人じゃないと

気づいていたから、

大穴でしかなく、

「うわ、とんでもないすごいのがきた」


井上芳雄の舞台は観ないくせに

細貝圭の舞台は喜んで行った。


それから、テニミュキャストの舞台は久しぶりに観たが。


まぁ、さすがにこれから、ACM劇場のゲネプロなんて見る機会がないと思った。


ローカルキャストとしての

オーディションが飛んだ、

オーディションを受けることさえ

許されなかった舞台を観たのは、

細貝圭さんの舞台から5年以上

経った今年だった。


わたしは事情がわかるからいい。


でもこれで、芸能界に恨みを持つ人間は大勢いると思う。


なんの理由もなく、

知名度のある人間には舞台が用意され、

無名の人間はゲネプロ入り口で

怪訝な顔をされて当たり前、

ばっさり出演がなくなる、

アンサンブルキャストはいない。


オーディションは延期に次ぐ延期。


無名の人間は黙って死ねと?!


金払って舞台にたたせていただくだけで満足しろと?


ふざけんなよ、芸能人、そして、芸能界!!


無名から搾取した金、どこに消えて行ったんだよ!?


もう、いい加減にしろ、やめなよ。


エキストラには出演料なくて、

弁当も飲み物もなくて、

同じ画面に出られたから

それでいい?


セリフもないからいらない?


エキストラなんていらないの?


今までさんざん無料で、

そして、アルバイト代つぎこんで

給料を注ぎ込んで私が払った金無駄遣いして、

もうたくさんだよ!!


そんなに知名度のあって、稼げる人間しか欲しくないなら。


金取らずに無料でできるだけの

金蓄えてんだろ、一部の芸能界制作!!


赤字を物販でまかなえるわけねーだろ、

たとえ物販が無かろうと、

ツアー全飛びでも、一年分の給料は

溜め込んでいるはず。


なぜなら、スクールを出ても回収できる

人的資源は限られているから。


芸能界は、それぐらい厳しい。


わたしの知っている情報だけど、

10年前に日ナレ、つまり超有名声優

スクールに通っていた女の子は専業主婦になっている。


声優志望全員、声優になれなかった。


わたしの子役時代の同期で、

東京の芸能界に行って成功したのは

ただひとり。


つまり、300分の1。


元からポテンシャル、基礎能力があっても、有名になれるとは限らない。


2万人から選ばれた。

10万人からえらばれた。


さて、ここで問題です。

日本の人口は何人でしょうか。


その中で、有名人は何人いるでしょうか。


そのことを良く考えてみ?


つまり、有名になれるのは、

100万人にひとり。


これ、宝くじに当たるより低いかもね。


宝くじの当選確率知らないけど、

芸能界で成功するには、それぐらい

バクチ、ギャンブルだし、

パチンコで勝つ確率より低い。


あきらめな。


わたしは少なくとも、芸能界に入ることは、子役になることは、

おススメしない。


だって、ギャンブルでしかないから。


今の時代、無名が有名になる確率は

途方もなく低くて、それだから

みんな死ぬことで有名になろうとするけど、自殺者が多すぎて、

死人が多すぎてそれすらかなわないから、

この日本でなく、主戦場をほかに移したほうがいい。


まぁ、わたしは日本でしか通用しないから日本に居続けますが。


一瞬だけでもハワイの芸能界、

アメリカのエンタメ業界を子供の頃見てしまったのだよ。



世界を。


世界を観てるから、だから厳しさは他より知っているし、

そもそも母方が芸能人一家だし、

育ての親は浅草から石岡に逃げた人だから不思議とそう言う昔ながらの話は知ってる。


まぁ、近頃の若いもんにはまだまだ負けんよ。


引退した身なんで、しばらくは

芸能界とも一切かかわらず、

穏やかな一生を過ごしたいものです。


波風立たず、静かに過ごしたいだけなので、一生、無名で過ごしたい。


もう嫌だ。たくさんだ。


知名度があがれば好き勝手違う人格の人間が一人歩きするし

知名度がなければゴミと同じ存在、

とかくこの世は生きにくいです。


死んだ方がマシです。


わたしのことは死んだと思って、

放っておいてください。


という思いと。


このまま死んで行くのは嫌だな、という思いがある。


俺が死んだら、誰が三浦春馬のすごさを語り継いでくれる?


誰が三浦春馬の名誉を。


窪寺昭の素晴らしさ、そして、すごさ。


まだ、この殺陣。

受け継がないと、このままだと

時代劇は死ぬ。


それでもいいのかもしれないという

思いがある。


正直に言う。


今わたしが死んでも、悲しんでくれる

人はいないし、むしろ、せいせいすると思うんだ。


それぐらい、わたしが死ねば喜ぶよ。


公務員だし、独身だから、

全部親の金になるもん。


そうはさせない、させたくない。


推しの元に届くよう手続きを済ませたい。


正直、自分の親戚や市役所に入るぐらいなら、推しの活動資金として動かして欲しい。


それぐらいしか、わたしには存在価値はない。


あくまでも自分の見立てです。


人的資源としてはマイナスなので。


金融資産ぐらいしか価値がないんです、わたしは。


国にとっても、勤務先にとっても価値はないし、

正直、わたしひとりが死ねば環境負荷が減ります。


つまり、生き続けるほうが地球、

ひいては人類に迷惑なわけ。


死んだ方が地球、人類に貢献できるんです。


だから、わたし、「死ぬな」とは言わない。


わたしが人を殺そうとした人間が

「人を殺してはいけない」なんて言わないよ。


だから、決めるのはあなただ。


そして、死にたい、と思っても、

人体は、心臓も脳もかなり頑丈にできているから、死ぬのに成功した人間は数少ないんです。


殺し屋を雇って殺されたい?


いや、それはあなたが億や兆単位の

稼げる人的資源だった場合です。


死ぬのも自由、生き続けるのも自由。


でも、自殺するということは、

この日本で非公式に勧められている

計画、

「日本人撲滅計画」に、手を貸す、ということです。


現在、この世界では、日本に住む人々、および日本国籍を持つ人、

もしくは日本の心を持つ外国人、

日本びいきの人を減らすことで、

日本という国を無くす、悪の計画が

進行中です。


死を選ぶことは、悪の手先に落ちることです。


今、この日本で死ぬこと、死を選ぶことは、つまり。


ヒーローがいない未来を選ぶと言うことです。


ノアの方舟は、青い鳥は、そして、

大切なものは。


目に見えないんだよ。


だから、自分で決めて。


そして、さし伸ばした手を振り払って、生き抜くのはもしかしたら

地獄かもしれないけど、

寿命が一番です。


生き残ろうぜ。お互いに。


脳みそさえ動いていれば、

誰もあなたをおかせないから。

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温室育ち 荒川 麻衣 @arakawamai

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