第39話 ドミニクの怒り

「あ? クソだと?」


 ドミニクの言葉を受けて、ベイツの顔が怒りに引きつる。


「てめぇ……誰に言っているのか、分かっているのか?」

「もちろんだ」

「へっ! いい度胸だ。さてはよそ者だな?」


 言いながら、ベイツは剣を抜く。それはかなり大型の剣だったが、ベイツはその重量を感じさせない軽快な動きを見せている。


「おまえも抜けよ。真正面から啖呵きったんだ……やるんだろ?」


 ベイツは戦う気満々のようだ。

 ドミニクとしてもそれを受けて立つつもりだったが、


「ベイツ様、ここで戦ったら兵士どもが寄ってきますぜ?」


 側近のひとりがそう告げた。

 確かに、血だらけのセルジオを見た通行人たちが騒ぎ始めた。それほど遠くない距離に検問所があるため、騒ぎを聞きつけた兵士が駆けつけるだろう。

 そうなれば、取り締まりの対象となるため、これ以上派手な行為はしないだろうと思っていたのだが、


「関係ねぇな!」


 側近からの助言を無視して、ベイツはドミニクへと襲い掛かる。

 大剣を持っているとは思えないスピードで、あっという間にドミニクまでの距離を詰める。

 ――だが、ドミニクは慌てなかった。


 ベイツの態度から、不意打ちも十分に考えられると構えていたのだ。

 強烈な一撃を、ドミニクは直前で回避。

 その直後、大きな衝撃と共に、石造りの道に大きな穴が生まれた。


「凄い威力だ……」


 さすがに、この辺りでは屈指の実力を誇る冒険者パーティーのリーダーを務めているだけはある。もしもベイツが口だけの男なら、ついていく者はひとりもいないだろう。あれだけの態度でパーティーが成り立っているということは、リーダーであるベイツの実力が相当なものであることを意味していた。


「感心している場合ではないぞ、ドミニクよ」

「ですね!」


 ドミニクは霊竜エヴァを憑依させる。

 これにより、魔力は格段にアップした。

 

 その異変を、ベイツも理解する。


「て、てめぇ……何をした!?」


 つい先ほどまで対峙していた人物とは思えないほど、劇的に跳ねあがったドミニクの魔力。ベイツにはそれに気づいたのだ。


「どうなっていやがる……」


 霊竜エヴァの姿が見えないベイツにとって、それはあるまじき現象であった。

 それでも、彼の性格上、一度振り上げた拳を黙って取り下げることはできない。


「ちぃっ!」


 ベイツは再び大剣を構える。

 ――次の瞬間、ベイツは戦慄する。


 ドミニクの魔力はさらに上昇を続けていた。

 これまでに経験のない魔力量。

 あれを解放して自分に放たれたら――その未来を想像するだけで、ベイツの額にはじっとりと汗が浮かび上がる。


「この俺が……恐怖している……?」


 思わず口にした自身の心境を振り払うように、ベイツは激しく顔を横に振る。


「そんなはずがあるか……あってたまるかぁ!」


 大剣を手にしたベイツが再び襲い掛かる。

 対して、ドミニクは特に珍しいわけでもない、至って普通の剣で迎え撃つ。

 

「死ねぇ!」

 

 殺意のこもった斬撃は、しかしその思いとは裏腹に空を切った。


「何っ!?」


 会心の一撃をかわされ、困惑するベイツ。

 さらにドミニクの姿を失ったが、


「遅い」


 すぐ真横から声がしたかと思うと、脇腹に衝撃が走る。

 それを風魔法による攻撃と認識した直後、彼の体は遥か彼方に吹っ飛んでいき、街のシンボルとなっている時計台に激突。

 

「がはっ!?」


 激しく背中を打ちつけたベイツはそのまま気を失ってしまう。


「「「「「なっ!?」」」」」


 銀狐のメンバーだけでなく、居合わせた者たちすべてが口をあんぐりと開けたまましばらく動けなかった。


 ただ、ドミニクだけが、


「やりすぎたかなぁ……」


 と、困惑の表情を浮かべるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る