第35話 銀狐
コルドー周辺にはダンジョンが全部で八ヵ所存在しているらしい。
そのうちのひとつ――最難関とされるダンジョンに挑戦中のため、長期間にわたり現地で活動しているのだという。
時々、メンバーが買い出しなどで街に訪れるらしいが、それは不定期のため、今度いつ来るかは分からないのだという。
だが、イリーシャの両親にまつわる情報は間違いなく彼らが握っている。
せめて、それだけでも教えて欲しいと、ドミニク一行はそのダンジョンへと向かっていた。
ちなみに、妖精エニスは荷物から飛び出し、今はドミニクの肩でひと休み中である。
「しっかし、おまえたちも物好きだな」
ダンジョンまでの同行者として、マキシという中年冒険者が名乗りをあげてくれた。
彼はギルドで最初に銀狐に対し警告を行った人物だ。
「銀狐に会ったところで、追い返されるのがオチだぜ?」
「そのことなんですけど……銀狐って、昔からそんな調子なんですか?」
「あ? どういう意味だ?」
「実は――」
ドミニクはこれまでの経緯を説明する。
すると、
「こ、この子がギデオンとヴェロニカの娘だっていうのか!?」
どうやら、マキシはイリーシャの両親について知っているらしい。
だが、肝心の現在地については知らないという。
「あのふたり……急に忽然と消えちまったからな」
「何も言い残さずに、ですか?」
「その通りだ。ったく、こっちとしてはギデオンの医療スキルに助けられてばかりで何ひとつ恩返しできていないっていうのに」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
愚痴っぽいマキシの言葉の中に、聞き捨てならない情報があった。
「ギデオンさんって、医療スキル持ちだったんですか?」
「ああ。スキルだけでなく、知識も豊富でな。俺たちは随分と助けられたよ」
母のヴェロニカは希少種の支援活動。
そして父ギデオンは医療スキル持ち。
「もしかしたら、ふたりとも慈善活動に精を出しているのでは?」
「……俺もそう思った」
だとしたら、また絞り込みができる。
ただ、やはり決定的な情報が見込めるのは銀狐の関係者からだろう。
「しかし、見れば見るほど似ているな」
ランドの引っ張る馬車の荷台から顔を出していたイリーシャとシエナだが、マキシと目が合うと慌てて引っ込んでしまう。
「はっはっはっ! こりゃ嫌われてしまったようだな」
「す、すみません」
「いいってことよ。あれくらいの年齢の子ども――それも女の子からすれば、俺の顔なんてモンスターと同等よ」
豪快に笑い飛ばすマキシ。
極悪な人相からは想像しづらいが、意外と子ども好きで良識のある人物のようだった。
その後、到着するまでの間、マキシは銀狐の詳細な情報を教えてくれた。
まず、やはり銀狐はもともとまともな冒険者パーティーであったらしい。
それは先代のリーダーがしっかりした人で、まさに模範的な素晴らしい冒険者であったという。人々からの信望も厚く、このコルドーを代表する冒険者三選に選ばれるほどの実力者であった。
しかし、そんなレジェンド冒険者も寄る年波には勝てず。
パーティーを息子に託し、本人は田舎町へと引っ込んで隠居生活を楽しんでいるとのこと。
この二代目が問題だった。
ロクデナシの荒くれ物で、歯向かうヤツは次々に追放していったという。その追放されたメンバーの中に、イリーシャの両親も含まれていた。
「新リーダーとなったベイツも、あのふたりにだけは説得したらしいが、結局、慰留することができずにやめていった」
「そうだったんですね……」
とりあえず、イリーシャの両親が悪事の片棒を担ぐようなマネをしていなくてホッと胸を撫で下ろすドミニク。
それは父親側――ギデオンの母であるエヴァも同じだった。
「ふぅ……もしあのバカ息子が加担しているようなことが分かれば、ワシが噛み千切ってやるところじゃった」
物騒な物言いに、ドミニクが「あはは」と苦笑いを浮かべていると、一行はとうとう目的地であるダンジョン近辺に到着。
「あそこだ。あそこにある白いテント群が銀狐の拠点地だ。
そう語るマキシが指差す先には、確かにテントと冒険者らしき人物がチラホラ。
「よし、行こう」
覚悟を決めたドミニクは、銀狐と接触を図るため、一歩を踏み出した。
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