第29話 寄り道

 思わぬ寄り道を強いられたドミニクたちは、兵士の教えてくれた旧道を使ってゼオ地方を目指していた。


「思えば、結構遠くまで来ましたね」

「まあ、順調に手掛かりがつながっていってるからな。……ただ、今度はそう簡単にいかないかも」


 ドミニクが抱く懸念。

 それは、イリーシャの両親――ギデオンとヴェロニカのふたりが、国家に関わる重要な仕事を任せられた人物である可能性も出てきたからだった。

 冒険者としての姿が仮初めだとしたら、今後はそっち方面でも情報を集めていかなければならないだろう。

 情報の幅が広がれば、それだけ彼らに近づける――と、単純に楽観視はできない。情報が多いということは、それだけ精度も落ちる。特に、これから訪れるゼオ地方にあるマグラクという場所は、大陸でも屈指の商業都市として栄えている。ゆえに、ガセ情報を掴ませて一儲けしようとする輩も少ないことが予想された。


 唯一、銀狐という冒険者パーティーだけが、頼みの綱だった。


 かつて、ギデオンとヴェロニカがそこに所属していたというのは事実のようなので、そこにいるメンバーならば、パーティーを抜けたあとにどこを目指して旅だったか、そのヒントが得られるかもしれない。


「…………」

「どうかしましたか、ドミニク」


 考え事をしていると、アンジェがドミニクの顔を覗き込む。


「ああ、いや……もし、銀狐のメンバーが目的地について心当たりがないとなったら、そこで情報がプッツリと途絶えてしまうことになるなぁと思って」


 あまり考えたくないことだが、あり得ない話ではない。

 深刻な表情で告げたドミニクに対し、アンジェは明るく返した。


「ですが、アントニオさんが言っていたじゃないですか。冒険者ならば、あのふたりの名前は耳にするって。きっと新しい情報がありますよ」

「ああ、そうだね」


 確かに情報は集まるだろうが――真偽を見極める必要がある。

 そのために、自分が頑張らないとな、と誓うドミニクだった。


  ◇◇◇


 その日の夕方。

川を見つけたドミニクは、その周辺で一夜を過ごすことに決めた。

 周辺には新しい荷台と共に購入した認識阻害の結界を張って襲撃に備えると、夕食の準備に取りかかる。


「食材は保存がきく物を中心に買い揃えたけど……せっかく近くに川があるんだ。現地調達もしようか」

「現地調達ですか?」

「分かりました! 魚ですね!」

「正解だ、シエナ」


 ドミニクはそう言うと、ランドに載せた荷物の中から大小ふたつの釣り竿をとりだす。


「というわけで、早速釣りに行こう」

「「おおー!」」


 息ピッタリの返事をするシエナとイリーシャのふたりを連れて、ドミニクは川へ魚を釣りに出かける。

 その間、アンジェはスープづくりを行い、霊竜エヴァはもしもの時のためにアンジェのそばに残って護衛係を務めることになった。


 ドミニクと子どもたちは川へと向かい、手頃な岩を見つけるとそこに腰を下ろして釣りを始める。餌はドミニク特製の練り餌だ。


「どれくらいで釣れるの?」

「それは魚に聞いてみないと分からないなぁ」

「! お魚さんは私たちの言葉が分かるんですか!?」


 真顔で聞き返してくるシエナ。 

 この辺りはまだまだ子どもだなぁとほんわかしつつ、ドミニクは「冗談だよ」と言ってシエナの頭を撫でた。


「さあ、ひとり一匹食べられるように最低でも四匹は釣らないとな」

「「おぉ~!」」


 夕食確保のために燃える三人。

 結局、合計で六匹の魚を釣り上げたのだった。

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