マイホーム・ドラゴン ~手乗り霊竜とその孫娘を連れて行く自由気ままな冒険譚~
鈴木竜一
第1話 「奇跡」の到来
※第2話は本日午後7時頃投稿予定!
冒険者たちが集う町――ジョネス。
その日、冒険者ドミニク・ウォルスの一日はいつもと変わらない始まりだった。
朝、半壊した倉庫のようなボロ家から職場であるダンジョンへと向かう。途中で冒険者ギルドへ寄り、クエストを確認。今朝は体調があまり優れなかったのでランクFの薬草採集で済ませようと思い、申請。装備を整えたら早速ダンジョンへと潜った。
薬草はダンジョンの奥深くに潜らなくとも、入り口付近に出没するザコモンスターを狩るだけでゲットできる。
装備が万全ならもっと奥へと向かうのだが、万年貧乏のドミニクは最低ランクの物しか持っていないため、ここまでが限界。適当に出てくるスライムや魔犬を狩っていた。
ある程度倒し終わると、ドロップした薬草の数もクエスト達成に必要な量まで届いていることに気づき、今日はこれで引き上げることにする。
「ふぅ……」
呼吸を整えるため息を吐き、額の汗を腕で拭う。
すると、
「うん? あれは……」
視線の端っこに見慣れないモノが入り込んだので、そちらへと体を向ける。それはこの辺りでは見かけない虹色をしたスライムだった。
「珍しいな……ついでだ。倒しておくか。もしかしたら貴重なアイテムをドロップするかもしれないし」
軽い気持ちで、虹色スライムを愛用の剣で斬り捨てる。特に反撃を受けることもなく、あっさりと討伐が完了し、光となって消える虹色スライム。ドミニクはドロップしたアイテムを回収しようと腰をかがめるが、その動きが急に止まった。
「! お、おいおい……」
それは冒険者になって十年――今年で二十二歳になるドミニクも初めて見るお宝だった。
スライムのボディと同じ虹色に輝く鉱石。
見慣れないそいつの正体を知るため、背負っていたリュックからアイテムカタログを取り出す。月一で発行されるアイテムの相場が記された本で、冒険者にとって必需品だ。
「えぇっと……あった。これだな、きっと」
すぐに見つかり、内容を確認する。
「名前は虹魔鉱石……そのままのネーミングだな。相場はっと――うえっ!?」
思わず間抜けな声が漏れる。
だが、それは仕方がないこと。
虹魔鉱石の値段はとんでもない額だったのだ。
「い、一億ギール……」
十年という冒険者生活を振り返ると、これまでの最高金額は生け捕りにした子どものダイヤモンド・ボアで十五万ギール。あの時は金額を耳にしただけで震えてきたが、今は過呼吸に陥っている。
「や、やべぇ……へへ、やったんだ……俺はついにやったんだ!」
徐々に己が仕留めた獲物のとんでもなさに実感が湧き、思わずその虹魔鉱石を抱きしめた。
ギルドへ戻ったドミニクは浮かれに浮かれた。
一応、その場で鑑定をしてもらったが、紛れもなく本物であることが発覚し、億万長者となったことを実感すると、ギルドにいた冒険者全員を引き連れて近くの酒屋へと突入。
「今日は全部俺のおごりだ! 好きなだけ飲み食いしてくれ!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
長い下積み時代を経てようやく結果を出したドミニクを、同業たちは祝ってくれた。中にはその幸運を妬む者もいたが、大多数の冒険者はドミニクが誠実で心優しい男だということを知っていたので素直に祝福していた。
「これで貧乏生活ともおさらばだ!」
普段はあまり口にしない酒を浴びるように飲むドミニク。その頭の中は冒険者稼業を廃業して武器屋でも開こうか、あるいは宿屋という手もあるな、あと嫁が欲しいな、などなど次から次へと浮かんでくるやりたいことに目を細めていた。
そのすべてが叶う。
一億ギールという大金があれば。
浮かれまくるドミニクの意識はやがて薄くなっていき、周囲の声が遠のいて景色が歪んでいった。
そしてとうとう深い眠りへとついたのだった。
ドミニクの人生でもっとも楽しかった夜はこうして更けていったのだった。
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