三面相と人魚姫

束白心吏

Prologue

 人の行き来が激しい夕方は、都心から離れた街であっても、駅前や交差点は混んでいる。

 ふと西に視線を向ければ、ビルとビルの合間から、綺麗な茜色をした、夕焼けが落ちていく。いつの間にか季節は巡り、日は段々と短くなっている。


「……」

「……」


 僕こと天草あまくさ氷雨ひさめは、『人魚姫』と名高い美少女、風玲かざたま恵衣めいさんと手を繋ぎ、少し肌寒さを感じる街中まちなか歩いていく。

 恵衣さんと僕との間で会話はない。手を繋いでいるのも、繋いだ手の温もりが、僕達の幸せを表しているかのような気分になるからに過ぎないのかもしれない。

 けれどそんな幸せな時間は有限で、終わるとなると名残惜しいものだ。帰り道の別れ道、彼女はここでギュっと繋いでいる手を握りしめ、まだ一緒にいたいと意思表示をしてくる。

 だから僕は、繋いでいる『人魚姫』の左手首にキスをする。


「また明日ね。お姫様」

「うん。また明日ね王子様」


 最近では、繋いだ『人魚姫』の手首にキスしてからお別れするのが習慣となっており、キスされる側も満更ではない様子にみえる。

 彼女と別れた僕は、どうしてこんな華々しい高校生活が始まったのか……それを考える。端からみて不釣り合いな僕と彼女が恋人同士というのは不思議極まりないことだ。

 夜空に浮かび始めた星を眺めながら、僕は彼女と付き合うことになる出来事をふと思い出した。

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