さんどいっち

紀伊谷 棚葉

さんどいっち

「なんだか今日はサンドイッチ作りたい気分なんだー」

歳が4つ下の嫁が楽しそうにキッチンから話しかけてくる。

余談だが、年下の場合は『嫁』、年上の場合は『妻』と言うのが

なんとなく自分の中でしっくりくる感じがある。俺だけかな。

「朝はレタスタマゴサンドでーす」

6枚切りの食パンを半分に折った間に、シャキシャキレタスを挟み、

さらにその間にゆで卵をマッシュしてマヨネーズと和えたアレをたっぷりいれた、

嫁のお手製サンドイッチが俺の目の前にやってきた。

「うまそー!いただきまーす」

晴れた気持ちの良い休日の朝。愛する嫁の作るサンドイッチをほおばる幸せ。

そんな幸せの前では(食パンは焼いてある方がいいなー)とか、

(ちょっとマヨの比率高くないか)とか言う小さな注文も飲み込んでしまえる。

サンドイッチと一緒に。

「どう?おいしい?」

嫁が小さめのレタスタマゴサンドをテーブルに置きながら尋ねてきた。

「うん、おいしいよ」

こういう場合、『素直に感想を言った方が良い』とテレビが教えてくれたのを

思い出したが、朝から嫁を悲しませることもない。

優しいウソは小さな日本の一世帯には必要なのだ。と、自分にいい聞かす。

穏やかな朝はそんな感じに過ぎていった。


 休日の午前はお互いが分担した家事をすることになっている。

子供もまだいない2人暮らしの家事など掃除や洗濯くらいなもので、

そんなに時間はかからない。

のんびりのびのびと役割を全うし、テレビのワイドショーを見ながら嫁の作る

お昼ご飯を待っていた。

「お昼はホットドック風サンドでーす」

6枚切りの食パンを半分に折った間に百切キャベツ、いや九十三切キャベツを挟み、

その間にスライスチーズと焼いたソーセージ、上にケチャップをかけた

嫁のお手製サンドイッチが俺の目の前にあらわれた。

「おもそー、いただきまーす!」

思わず本音が飛び出したが、いただきますの語尾を上げることで誤魔化せたはずだ。

朝のレタスタマゴサンドがまだ十二指腸の手前に居座っているが、入らないことも

ない、焼いたウインナーは俺の好物だ。

秋と冬の合間にあるちょうど良い暖かさの日差しに包まれながら、

愛しい嫁の作るサンドイッチを味わう喜び。

そんな喜びの前では(おいキャベツ、千はどこだ、千がほしい)とか、

(チーズが…冷たい…)とか言うささいな文句も飲み込んでしまえる。

サンドイッチと一緒に。

「どう?おいしい?」

嫁がひと口サイズに切ったサンドイッチをテーブルに置きながら尋ねてきた。

「ちょっとおもいけど、おいしいよ」

こういう場合、『思ってることの5割くらいは言っても良い』と昔立ち読みした雑誌に書いてあったのを思い出したが、2割くらいがちょうど良いだろう。

言い過ぎたってろくなことはない、墓穴を掘るのはワイドショーのコメンテーターに

任せるとしよう。と、自分に言い聞かす。

うららかな昼下がりはそんな感じに過ぎていった。


 違和感は感じていた。


(朝はレタスタマゴサンドでーす)

(お昼はホットドック風サンドでーす)


この流れは、夜もサンドイッチでもてなされる。

覚悟はしておこう。あと、できる間にツッコミをいくつか考えておこう。

①夜もサンドイッチかよ!そんなにトランプしたくねーよ!

②で、でたー!これがホントの三度一致だー!

よし、この2択でいこう。家庭内のツッコミクオリティなんてこんなものだ。

多分①番は意味通じないと思うけど、準備はできた。さあこい、晩御飯!


「晩御飯はハンバーガーだよー」

「ハンバーガーかよ!それなら食える!いただきまーす!」

市販品ハンバーガー用バンズの間には、嫁お手製のハンバーグ、

嫁お手製の目玉焼き、嫁お手製のデミグラスソース、嫁のちぎったレタス、

嫁の切ったトマト、嫁が敷いた冷たいチーズがきれいに挟まれていた。

「どう?おいしい?」

嫁が目玉焼きのせハンバーグとサラダ、白米を盛りつけたワンプレートをテーブルに置きながら尋ねてきた。


サンドイッチとハンバーガーはギリギリ別物と思える。俺だけかな。

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