第三章

ウォリーとダーシャ

 Bランクモンスター、ダイヤモンドウルフ。

 全身の体毛は日光を受けてキラキラと銀色の光を美しく放つ。

 スラッと伸びた4本の脚の先端には透明に透き通った爪が並ぶ。

 その神秘的な姿とは裏腹に、怪しく光る両目からは凶暴な殺意が放たれている。

 その殺意の向かう先は、2人の冒険者。

 4頭のダイヤモンドウルフは冒険者の周囲をぐるぐると囲うように歩きながら、飛びかかる機を窺っている。


 冒険者の1人は男性で剣を手に持っており、もう1人は女性で素手だった。

 獣達は女性の方が仕留めやすいと見たのか、彼女目掛けて一斉に飛びかかった。

 彼女の前方から攻め込んだ2頭の牙が彼女の肉に噛み付く寸前、黒い炎が吹き上がり獣達を飲み込んだ。

 炎に焼かれてのたうち回る獣を前に、彼女は片手を掲げた。その手に黒炎が集まっていき、剣のような形になる。

 彼女が黒炎の剣を振ろうという時、背後からもう2頭の獣が襲いかかって来た。しかし、男性冒険者が彼女の後ろを守るように立ち塞がり、2頭の攻撃は防がれてしまう。そのまま彼はその2頭に斬りかかって行く。

 女性冒険者が黒炎の剣で前方に居た2頭の首を刎ねるのと、後方の2頭を男性冒険者が仕留めたのはほぼ同時だった。


「何度見ても凄いな。その黒炎のスキルは…」


 剣についた付いた血を拭きながら、ウォリーは言った。


「盾にもなるし剣にもなる。おまけに空も飛べるし遠距離にも対応してる…万能過ぎるよ」


 彼から賞賛を受けた女性…ダーシャは澄ました顔で鞄を開いた。


「いや、そんなに便利なものではない。燃費が悪くてな…特に空を飛ぶのには大量の魔力を消費する。長期戦には向いていないんだ」


 彼女は鞄から取り出した小瓶の中身を飲み干した。どうやらマジックポーションのようだ。


 盗賊との戦いの後、パーティを組んだ2人はこうして共にダンジョンを歩くようになっていた。

 ダーシャはウォリーよりも2つほど年上だが、仲間だから敬語はやめろという彼女の強い希望で、今はお互いため口で話す間柄になっている。


「ウォリーの方こそ恐ろしい能力だな。効果の高い回復や解毒が使えるのに、近接戦闘まで出来てしまうなんて…普通ヒーラーはサポート専念する分、接近戦は苦手なものだぞ」


 盗賊討伐の際、ウォリーは毒に侵された大勢の村人を解毒して救った。彼のスキルお助けマンの効果で、村人を1人助ける毎にポイントが加算されていき、結局あの時彼が手に入れたポイントは30万を超えた。

 ダーシャに初めて会った時に得た3万というポイントに比べると、村人1人あたりで入手出来たポイントは5千〜1万と少ないものだったが、そもそもあの時の場合、村人の安全の確保も依頼を受けた冒険者の仕事と言える。

 お助けマンのスキルを目覚めさせた老人の「助ける筋合いの無い人間を助ける事が人助け」という言葉からすると、仕事の一環として人助けをした場合は得られるポイントが少なくなるのかもしれない…とウォリーは考えた。

 彼は溜まったポイントの30万うち10万はもしもの為にと取って置き、残り20万をステータス強化につぎ込んだ。

 そのお陰で今まで彼のステータスの中でも低い部類だった攻撃力と防御力は190を超え、Bランクのダイヤモンドウルフを楽々倒せる程に強くなった。







「ウォリー様のパーティの加入希望者ですが…今のところゼロですね」


 ウォリー達がギルドに戻り受付に行くと、受付嬢は気まずそうに言った。


「ウォリー様、申し上げにくいのですがやはりダーシャ様は…」

「いや、大丈夫。これでいいんだ」


 受付嬢の言葉を遮って彼は言うと、受付を後にした。

 彼がパーティの設立を申請し加入希望者をギルドを通して募集したが、最近は希望者は全く現れない。

 パーティ設立直後は何人か希望者が居たが、ダーシャとパーティを組んでからはその希望者も次々と辞退していった。

 やはり差別を受けている魔人族と同じパーティになるのはいい気がしないという事なのだろう。だが、ウォリーはこれで良いと思っていた。


「すまない。私のせいだな」


 ウォリーがギルドから出ると待機していたダーシャが頭を下げた。


「いや、むしろ僕の希望通りで良かったと思ってるよ」

「…どういう事だ?」

「もしこの状況でもパーティ加入を希望する人が現れたなら、きっとその人は魔人族に対してそんなに差別意識を持っていない人って事なんだと思う。もしパーティに新しく加えるなら、そんな人がいいなと思ってる」

「しかし…それは私基準でパーティを組むという事だろう?」

「いいや、むしろ僕基準だよ。多分、今君がパーティに居なくて、別の人と組んでいたとしても、僕は君の事を助けようとしていたと思う。そんな時、パーティメンバーといちいち揉めるのも嫌だしね。前に僕が居たパーティでも、そういう所が合わなくて上手くいかなかったし…」


 そう言ってウォリーは空を眺めながら、レビヤタンの仲間達を思い出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る