第116話 シャドウズの勝利?

『#’DEJL)H。JC”HTVST』



「何か喋っているのでしょうか……。私たちの耳では聞き取ることが出来ませんね。妖精言語は難易度が高い」


「それよりも、準備はいい? これを外したら一気にピンチだから、しっかり狙わないと。ちゃんと当てなさいよフー」


「言われなくても。既に標的との間にルートは作ってあるわ。あとは発射するだけ……」


「こっちも準備おーけー」


 サンがスキルで私を攻撃から守る壁になってくれている。私はその隙間から魔法の矢の狙いを定める。

 サンのスキル【強固表皮】と【不動】は頑強さではトップレベルの技だろう。

 彼女だけなら精霊の攻撃を真正面から受けても、おそらく傷一つ付かない。

 この状態だとサンは動けないが、私達はサンの影に隠れて攻撃し、精霊からの攻撃を防ぐことが出来る攻防一体の盾になるのだ。


「じゃあヒータ、リン。二人の魔法を均一の力で合体させて!」


「わかったわ」「わかりました」


 ヒータとリンは互いに手を近づけて、同時に魔法を唱える。

 ヒータは炎魔法を、リンは水魔法。そして私は風魔法を唱える。


 まず初めに水と風の魔法が合わさり、氷結魔法へと進化する。

 そして、ここからが本番だ。合体して出来た氷結魔法と、ヒータの炎魔法を更に合わせる。


「く……魔力のコントロールが難しい……!」


「頑張って抑えて! もう少し、あとちょっとで完成しそう……!」


 赤々とした炎と、白々とした氷が合わさり、白光へと変化する。


「完成よ……! 合体魔法【崩壊元素ブロークン・エレメント】!」


 白光の矢を構えて、風魔法で作ったルートに狙いを定める。あとは指を離せば妖精の脳天に矢が放たれる。


「行けーーーっ!!!!」


 一筋の光が変幻自在に動きを変えて、迷うことなく妖精の脳天を貫いた。

 そして、対象を貫いたことで役目を終えた魔法はそのまま霧散していく。


 だが、炎と氷。対極の力を持つ魔法を合体させたこの【崩壊元素ブロークン・エレメント】はひと味違う。

 霧散し、消える瞬間に元の炎と氷の力に分かれる。そして、相反する二つの力が反発し、強大な爆発を引き起こすのだ。


 爆発の規模こそ妖精の一撃に及ばないが、威力は匹敵するはずだ。

 頭を穿っても死なない可能性があるため、こうして追撃することで完全な止めを刺した。

 これでもう、大丈夫なはずだ。


「ふ、ふふ。やった……やったわー! 風使いの極神のヤロウにリベンジするためのとっておきだったけど、妖精にも通用したわね!」


「この四か月間、ただサバイバルするだけでなく修行を積んでおいた甲斐がありました。今の私たちなら真正面から極神に勝てなくても、搦め手なら倒せる力がある……そう思っていましたが、妖精を倒したことで確信が持てましたね!」


「これでいつでもりべんじできる……」


「ほらみんなはしゃぎ過ぎないで。私たち個人の力はまだロキ様の足元にも及ばないんだから。足手まといにならないよう慢心しちゃダメなんだから」


「固いなーフーはさ。もうちょっと喜んでもいいじゃない。せっかく妖精なんて大物倒せたんだから、こういう時くらい笑いなさいよ」


「フーはかたぶつ……」


 むにーと私の頬をサンがひっぱって、口角を無理やり上げさせる。

 それを見たヒータが面白がってもみくちゃにしてくるから、もう面倒くさい。

 リンに至ってはくすくすと笑っているだけで止めようともしない。みんな自由人か!


「はぁ……まあ、でもみんなお疲れさま。この勝利は私たちにとって大きな一歩となるわ。自分より強い敵を倒す。その経験は通常の戦闘で得られるものよりも価値がある」


「そうですね。一人では敵わなくても、四人で力を合わせれば勝てる。それがシャドウズです」


「万が一ロキ様が再び雷神なんかに遅れを取ることがあっても、その時はきっと私たちが力になって見せるわ……!」


「ふぁいとー」


「サンも頑張るのよ」


「ぜんしょします」


 もう、と飽きれながらも笑いが漏れてしまう。

 口ではこう言いながらも、私も勝利の余韻に浸っているらしい。



「結局、狩りに行った二人はあの妖精にやられたんでしょうか」


「でも妖精の攻撃であんな大規模な爆発が起きるなら、今朝の時点で誰か気付かないかしら?」


「標的によって威力を変えてるんじゃない?」


「たぶんそう。妖精のこうげきは魔法じゃない。わたしたちが腕をふるのと同じ感覚……。あいてによって込める魔力もちがうはず」


「つまり私たちはあんな大爆発じゃないと倒せないって判断されたのね! 妖精のやつも見る目あるじゃない!」


「喜んでいいのか微妙だけどね」


 現に妖精の攻撃を受けていたら死んでたのかもしれないし。


 妖精がいた場所を見て、きちんろ消し飛んだことを確認する。

 もし取り逃がしていたら厄介だったけど、大丈夫みたいだ。


「じゃあ、村に帰りましょうか」


「うん!」




『UTJT"'O+AT』


『JC"H? IY*”Y?』


『WG……*R』


『*R』


『*C$』




「え……」


 周囲から音もなくゆらゆらとした影が現れる

 それは一つだけではなく、五、一〇と数を増やしていく。


 その全てが妖精だった。


 先ほど倒したのと似た姿の妖精たちが、数十という群れで現れたのだ。

 何の冗談だ、と思った。

 こんなことがあるの? 妖精なんて、人生で何回か見かければ運がいいほうなのに。

 こんな数の妖精が同時に現れるなんて、尋常ではない。


「リン……一つ聞きたいんだけど、あの妖精たちってさっきのやつのお仲間よね?」


「ええ。魔力の量から質まで似通っています。まず間違いなく同族かと」


「ということは、仲間がやられたところを見たのよね」


「はい。露骨に爆発地点を囲むように現れましたから」


「じゃあ、私たちのことどう思ってるのかしら」


「敵以外の何物でもないでしょうね」


「……逃げるわ! 掴まって!」


 再び【疾風纏嵐】を発動して上空へ離脱する。

 しかし妖精たちの判断が早かった。数十体の内、数匹が手を上空へ伸ばした。

 その瞬間、眩い閃光が空を埋め尽くす。



 ドオオオオォォォォン――――!!!!





「う…………げほっっ! く、なんなの一体。数十匹の妖精に襲われるなんてギャンブルで大当たりするより珍しいわよ……!」


「……その例えは一回でもカジノに行ってからにしてください。私たちの年齢じゃあ、ギャンブルなんてできないでしょう」


 私とリンは妖精たちの攻撃による衝撃で遠くまで吹き飛ばされていた。

 なぜ私たちが無事なのかというと、サンのおかげだ。

 サンの【強固表皮】と【不動】によって攻撃を防ぎ、空中にいたことで吹き飛ばされはしたが体に衝撃が残ることは無かった。


 前面で攻撃を受け切ったサンは後ろにいた私たちよりも更に遠くへ飛ばされてしまった。

 ヒータの姿も見えないし、一度合流しなくては。


「フー、無茶をさせるようですがもう一度空に上がってくれませんか? 上空から現在の位置を確認しておきたいのです」


「え、リンを担いで飛ぶの嫌なんだけど……。私が確認するんじゃだめ?」


「ずいぶん遠くまで飛ばされたから、おそらく木で見えないと思いますよ。目視と魔力感知の両方じゃないと位置が把握できないはずです」


「そういうことなら仕方ないけど……」


 さっきは緊急事態だから三人を担いで飛んだけど、平時は嫌なのよね。

 しかも、よりによってリンだし。


「どうしたのですか? もしや体にダメージがあるのですか!?」


「いや、そういうわけじゃないの。ただ、何と言うか……」


「ん? なんですか、はっきり言ってください」


 これ、リンに言っていいのかしら。

 いくらリンでも絶対怒る気がする。いや、間違いなく怒る。


 だけど、リンを抱えて飛ぶのは嫌だ。


 言うしかない……。


「フー、黙ってないで何とか言ってくださいよ。どうして申し訳なさそうな表情でこっちを見てるんです? 事情があるなら聞きますから、さあ」


「じゃあ、言っちゃうけど……」


「はい」


 私はリンに真実を告げる。

 本人は気付いていない、リンの秘密を。


「あなた、重いんだもん」


「は?」


 場が一瞬で凍結した。

 なんてことだ、リンはいつの間にか一人で氷結魔法を使えるようになっていたの?


「……は?」


 一瞬の間があり、再びリンの疑問の声。

 いや、これはたぶん疑問じゃなくて問い詰めてるわね。

 一回目に比べて二回目のは? には弱冠の怒気が込められている気がする。


「どういうことですか。私がお、おおおお……重い? おかしなことを言いますねあなたは。私が重いって一体何を根拠に言ってるんでしょううううう……!」


「声震えてるわよ……自覚あるんじゃないの。だってほら、あなたっていつもみんなより多くご飯食べるし、栄養補給って言って間食取るじゃない。山での生活でも、木の実とか取って食べてるわよね」


「べ、べべ別にそれくらい普通ですよ!? 変な言いがかりやめてください!」


「さっきも【強固表皮】と【不動】で質量を増したサンよりもあなたの方が重かっ……」


「それ以上言うなあああああああ!!!!!!」


 結局、リンは泣きながら私の口を封じて続きを言うのを止めたのだった。


 ちなみになぜ私がこんなことを言ったのかというと、リンの体の一部がシャドウズの中で一番大きいから。


 当てつけである。

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