俺の迷いこんだ異世界は、異世界と呼ぶには現実的すぎる。
山尻 蛍
異世界とは、異なる世界と書く。
とんでもなく多くの人間を敵に回すことになるだろうが、あえてはっきり言おう。俺は異世界ものの話は嫌いだ。
予定調和感。ご都合主義。あまりにもタイミングの良すぎる助っ人。横文字すぎて絶対に覚えられない名前の人が繰り出すよくわからない魔法。そして大体その世界では主人公は最強。そして連呼される『チート』。
よく『俺TUEEE』ブームと呼ばれるが、はっきり言って俺はいかがなものかと思う。
別に、最強主人公が悪いわけではない。悪いのは、『最弱が急に最強になりました』とか、『最弱のはずの奴が最強』みたいな、なんの前触れもない強化である。
人間というのは何十年何百年と少しずつ時間をかけながら、時には自分が果たせなかった無念を次の世代に託し、時には天才的な発想で革命的な発明をし、失敗と成功、挫折と打開を繰り返してやっと、『最強』を生むのである。そしてその『最強』は、今日より明日の方が精練されているのだ。
そのはずなのに、異世界ものの主人公と言えば急に異世界に飛ばされ最強。んなアホな。呆れ果てる過程に全米が泣くわ。
そう。今説明したように、このような事態を生むのは、そもそも『異世界』があるからなのだ。
では、そもそも異世界とは何なのか。文字通り見れば、『異なる世界』である。…もう一度言おう。『異なる世界』なのである。
魔法があるし、魔物もいる。髪の毛の色も派手だし、女性の比率も圧倒的に多い。
しかし、では一体全体どのくらい異なるのか。
物理法則は?生物の生態は?存在する原子は反物質が優勢か正物質が優勢か?そもそも言語は?人が存在するのか?大気の温度は?酸素濃度は?水はあるのか?
答えを言おう。『大体は地球と同じ』だ。
…馬鹿馬鹿しい。大体同じな癖して『異』とか使ってんじゃねぇ。使えても『似』くらいだろうが!
三千歩くらい譲ってそれはいいとしよう。確かに、まず起こり得ないような環境の相似も、時間と空間を越えて事象を無限大回試行すれば、いつか同じようなものは出来上がるかもしれない。
では元の質問に戻ろう。何故、異世界に入る必要があるのか。答えは最初に言った通り、環境の変化により『最強』になるためである。
では何故、『ほとんど変わらない環境』に急に入門したところで、急に『最強』になるのか。それが俺が異世界ものの話が嫌いな理由である。
つまり!
俺が!
何を言いたいのかというと!
異世界はやはり現実的なのであって、残酷ということだ!
「あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!ここ何処だあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は本当に何もない草原の真ん中で叫んだ。
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