四十二.五話 罪悪感

 カイト達がミリの体のある病院に向かってからどれくらい経っただろうか。あの二人が直面する事実を考えると、胸の奥に鋭い刃物が何度も突かれる感覚に陥ってしまう。

「……わざわざ僕の見送りする為に残ってる訳じゃないだろう?」

 ふと声が聞こえ、未だに応急処置を受けているニールを見下ろすと、彼が腫れた頬に触れながら苦悶の表情を浮かべていた。

「あら、起きたの」

「正確には起きていた、だよ。君がカイト達について行かなかったのが疑問だな。君の部下になる子の顔は見ておくべきだったんじゃないかい?」

「あぁ……それはないよ」

「……なんでだい?」

 ニールの問いにクリスは彼から視線を上げ、三人が走っていった方向を見やる。

「知らない人に教えを乞うなんて、まずないって事」

「知らない、か。どういう意味かは気になるが、聞くのはやめておこう。ろくな事にならないしね」

 勿論、聞きたがっても教えるつもりはない。

 突きつけられる現実を、二人はどう受け止めるだろうか。カイトはともかく、セレカティアが心配だ。普段は年齢に似合わず毅然とした態度で振る舞っているが、内面は相応である。ショックのあまり、塞ぎ込んでしまうかもしれない。どんなに慰めようと、こればかりは立ち直りに骨が折れるだろう。

 自分自身、あの現実を目の当たりにした時はひどく落ち込んだ。今までの事を全て無に帰したとさえ感じた。共有した時間、あらゆる感情も自分だけしか分からない。当時の事を一緒に懐かしめない。言葉にするだけなら、仕方ないと終われるが、実際は違う。

 とてつもない喪失感に襲われる。しばらく何もする気には起きなかった。短期間でも築き上げてきたものが相手は知らず、自分だけが覚えている。あの虚しさは辛い。

 だからこそ、ミリに過剰な接触は避けた。必ず訪れる別れが辛くなる。それをカイトとセレカティアに押しつけた。とんだ酷い所長だ。

「卑怯なのよ、私は。あの子達になんて言ったらいいか」

「珍しく出口のない悩みに直面してるね」

「ゴールは簡単だよ。けど、私にはそこを通る事が出来ないだけ……」

「簡単でも難しい、と。不思議な事を言うね。君らしくない」

「これが私だよ。したくない事から逃げる。卑怯な奴」

「……それでも、君の事は好きだったよ」

「ありがとう。こんな私を好きでいてくれて」

 もう一度、彼を見て、クリスは笑みを浮かべる。

 二人には酷い事をした。その分、彼らの心のケアを徹底しよう。どう言われようと受け入れよう。それで気持ちが晴れるのなら、それでも構わない。

 所長の。大人の役目だ。

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