十九.五話 愛

 愛してるもの。

 カイトが帰る時に行った言葉。

 愛する。カイトを一人の男性として見た言葉ではない。

 彼を引き取る事を断らなかった最大の理由。

『あの子は、あのままだと本当に孤独になってしまう』

 彼の母が涙ながらに言った。その姿はクリスにとって忘れられず、今も鮮明に思い出す事が出来る。最初から、カイトを引き取る事は決めていた。しかし、一五歳と二一歳という壁によって、激しく拒絶されるのではないかと不安にもなっていた。上手くいかなければどうしよう、中途半端に関わろうとするなら最初から引き取らない方が良いのでないか、と家に向かっている間、何度も考えた。誰にも相談もせずに行動だ。不安しかなかった。

 私が引き取るから泣かないでください、と二人に告げた。最初は驚いた表情を浮かべていた二人だったが、喜びと不安が入り混じった表情へと変え、本当に良いのかと訊ねてきた。それを迷うことなく了承した。

 そして、一つだけ頼まれた。

『あの子を愛してあげて』

 クリスは遠くなっていくカイトの背中を見つめながら、笑みを深める。

「もちろん、愛しますよ。これからもずっと」

 椅子から立ち上がり、机に置いていたカップに入った残りのコーヒーを呑み干すと、大きく伸びをする。

「さて、愛するカイト君にまた文句言われない様に掃除しますか」

 机、ソファ、テーブルに積み上げられている書類に目を向け、声を張った。



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