十話 探索
カイトはミリと共に、噴水前に存在する庭へ向かう為、屋敷を出た。視界に広がる庭の右端には延々と噴出口から水を溢れ出させている噴水がポツンとある。その噴水は手入れをされている庭とは違い、所々薄汚れていた。おそらく、ミストが居るという事が薄気味悪いと感じ、手入れを怠った結果なのだろう。
その噴水まで歩くと情報通り、淡く青い光を放つものが霧の様にゆらゆらと揺らめいていた。
『これがミストですか』
隣で興味深そうにそれを見つめるミリ。そんな彼女を横目で見たカイトは、ミストを目の前に膝を折ると、目を細める。
「――にしても、これが人間だってのは驚きだよな。何も知らずにしてきたから尚更だ」
『知る以前は、どのように見ていたのですか?』
「ただの夜に光る迷惑なもの」
その言葉に、ミリの切れの悪い笑い声が聞こえてきたが、カイトは続けた。
「けどな、正体を知ったら今までしてきた事が怠慢だったんだと気付いた。適当に死んだ奴を扱うのは失礼だ」
死んだ両親の事を思うと尚更そう思った。彼らがミストにならなかった筈がない。幼い息子を残して死んでしまったら、肉親である者はどう思う。不安しか残らない。
自分達が居ない息子は、この先生きていけるのだろうか。飢えに苦しんでしまうのではないか。身寄りもなく、孤独な人生を歩んでしまうのではないか。
考えてもきりがない事を延々と悩み続けていただろう。だから、自分が家に戻った時、クリスが居たのかもしれない。ミストになった両親を還す為に。何故、そこに訪れたのかは教えてくれなかったが、それが理由なのだろう。
「……今更、か」
『え?』
「なんでもない。次、行くぞ」
立ち上がり、噴水に踵を返す。
憶測で決めるものではない。理由は訪れた本人に聞き出せばいいのだ。ミストの正体を知った今ならば、きっと教えてくれるはずだ。
次に向かったのは大木。それは、真下から見上げると首が痛くなるほど高く、カイトの身長の三倍以上にまで及んでいた。長く連なる枝からは、綺麗な緑色をした葉が生えそろい、時々吹く風によって靡く。その光景と音を聴いていると、心地良さに包まれ、溜まった疲れを癒される気がした。
『ここまで綺麗ですと、居たくなる気持ちが分かりますが……』
「期間によっちゃ、木自体が枯れてしまうな。今回は様子見だが、早めにした方がいいかもな」
『はい。この人の為にも』
カイトとミリは、大木に背を向け、屋敷に戻ろうと歩を進めようとしたとき、前方から若いメイドが歩いてくるのが確認出来た。
「あ、あの……還し屋様」
「カイトだ。カイト・ローレンス」
「では、カイト様。ミストなのですが、やはり悪いものなのですか?」
不安気に見上げてくるメイドに、カイトは首を左右に振った。
「いや、そんな事はない。確かに植物とかには悪影響なのは変わりないが、人に害があるような――」
「ですが、あの場所には二人がっ!!」
カイトの言葉を遮り、声を荒げさせる。
声を荒げさせる理由には、二人が亡くなった場所にあるのだろう。
「ミストはきっと、死んだ者の場所を巣食うのですよ! それぞれ二人の安らぎの場所でもあったんです」
「落ち着けって」
「ミストはあの二人を殺したのです! だから、あの場所に」
殺された、という言葉に引っかかった。
ミストはその二人に間違いない。それに、僅かながら影響を及ぼすが、体調不良程度だ。人を殺める程の影響力を持ち合わせている事は有り得ないし、聞いた事もない。
「なんでそう思うんだ?」
「なぜって」
メイドは涙を溜めた目で大木を指差し、
「血を流して死んでいたのですっ!」
悲痛の声を上げた。
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