第11話
相談に乗る、と言う彼の言葉に、しかし私は躊躇していた。
「…………別に、人に話すような事では、」
「半月近く悩んでいるのにか?」
「……そもそも軽々しく話して良いものでは無いんだ。」
たった一人に話したところで解決しない。ましてやこれは自分と彼女の問題なのだからと、そう考えていた。だが……
「何か勘違いしてるみたいだな……。」
「……勘違い?」
彼は珈琲を一口飲んで続ける。
「いいか? 相談される側ってのは必ずしもその悩みの全容を知っている必要は無いんだよ。今回みたいな場合は特にな。」
「どういう事だ?」
「悩み過ぎて疲弊している時に明確な答えを出されたら飛びつくだろ?」
「……確かにそうかもしれない。」
ほらそういうふうに、と指摘され口を閉ざす。
「……まあ今のは揚げ足取りみたいなもんだけどな。
とにかく、そんな精神状態の奴相手に俺は明確なアドバイスはしたくないし、そういう事なら隅から隅まで悩みの全容を知っている必要は無いだろ?」
……そういう事なら相談してみるか。
「…………例えばの話なのだが。」
「おう。」
「過去にしたことで罪の意識に囚われている友人に君ならどう声をかける? 更に言うとその『やったこと』にはなんの落ち度も無いし、それ以外の選択肢の選びようも無かったし、それに―――」
と、そこまで話したところで
「悪い、やはり無かったことにしよう。」
「…………ああー、……いやちょっと予想外に重いのが来てびびっただけだ。流石にあれだけ御高説垂れておいてやっぱやめるとか恥ずかしいから嫌なんだが……、あー……。」
相談相手が頭を抱えていた。
「……もしかしてその何かをした相手ってそいつの親しい友人とか……?」
「……ああ。」
そうきたかー。と天を仰ぐ友人はバツが悪そうに言った。
「すまん、アドバイスのしようがない。強いて言うなら無闇矢鱈に首を突っ込むことだけは絶対にやめろとしか。」
「……そうか。」
そういうのは自分で向き合わないといけないんだ、と言われては頷くことしかできなかった。
あとは、そうだな。と続ける友人に首を傾げる。まだ何かあるのだろうか。
「……ここからは単なるお節介としてなんだが。」
「なんだ?」
「その子に対して何か思いがあるならさっさと形にしとけ。」
「…………別に、今の話が以前話題にあがった女性のものというわけでは、」
「バレバレだっつの。……ったく。」
頭を掻き、コップを傾ける。しかしどうやら空だったようで、溜息をつき、店員におかわりを注文して再び話し始めた。
「……それならそれでもいい。だが、それが友人としての親愛だろうがなんだろうが必ず伝えろ。でないと後悔するぞ。」
あまりにも鬼気迫る表情に思わず頷いてしまう。
「……経験則、なのか?」
打って変わって店員からにこやかに珈琲を受け取る横顔に問う。先程までのことなど微塵も感じさせないようなその顔には翳が落ちているように感じた。
「ん、まあそんなところだ。終わった事だよ。……まあ俺の事はいいんだよ、お前の場合はタイミングが丁度いいんだから、後はそれを逃さないようにするだけだろ?」
「タイミング?」
「祭りだよ祭り、ああいう場所なら多少
「…………だからその話があの女性の話とは一言も、」
……結局、その話だけは分かってる分かってると適当に受け流されてしまうのだった。
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