第8話
「……やだなあ、今一緒に朝ごはんを食べたばかりじゃん。」
……その声は震えていた。
「それで君の悪魔としての腹は満たされているのか?」
「…………それは……」
悪魔の食物とは即ち他者の魂だ、他のもので満たされることはあり得ない。
……答えたくないのは分かっていた。それでも聞かなければならなかった。
「……もう、ずっと何も喰べてないよ。」
もう、分かりきっていた。
「……何故。」
「……何度も、何度も一人になってきた。」
そして、その理由も薄々勘付いていた。
「もう、一人になりたくない。」
「―――っ、」
……彼女は死にたがっていた。
「本当、おかしな話だよね。自分でナイフを突き立てるのが怖いからって緩やかな死に方を選んだのに、いざその時になると途端に怖くなっちゃってさ? やっと終わりに出来そうだったのに必死にもがいて、君に助けまで求めて。」
泣き出しそうな顔で、いくつも言葉を吐き出して。
「……笑ってくれていいよ。滑稽で、滑稽で仕方ないでしょ?」
「…………笑えるはずが、無いだろう……!」
そんな姿を笑える筈など無かった。だが……
「…………で、……て…………の?」
「……え?」
「……笑ってよ! 『無様だ』って、『滑稽だ』って! 突き放してよ! 見棄ててよ! やっと諦められそうだったのに! 全部嫌いになれそうだったのに! 君のせいでわたしはまだ『悪魔』になりきれない!」
それすらも、重荷となっていたのだろうか。
「……早く、わたしを一人にしてよ。…………みんなと同じにしてよ……!」
声を上げて泣き出してしまった彼女に、俺は何ができただろうか。
―*―*―*―
結局、声をかけることができたのは彼女がひとしきり泣いて落ち着いてからだった。
「……すまなかった。君の苦しみに気付いていながらずっと見ないふりをしていた。」
その解決手段が思いつかなかったから、というのは言い訳にもならない。……もっと早く、尋ねることさえ出来ていれば……。
「……らしくないね、いつもならわたしが愚痴を言っても適当に受け流すのに。」
「それとこれとは話の重みが違うだろう。私にだってそのくらいの分別はつく。」
「……そっか。」
そう言って彼女はおもむろに立ち上がり、窓の方へ向かう。昼間に差し掛かった海辺の眩しさに目を細め、また話し始めた。
「……ねえ、悪魔が悪さばかりをするのはなんでだと思う?」
「……分からないな。『そういう存在だからだ』という教会の説明を是とはしていないが否定する材料も無い。」
「なら、いつ、どうやって生まれたかは知ってる?」
急に始まった質問。だが、これは……。
「君と出会ったばかりの頃に同じようなことを私から質問したな。もっとも、あのときははぐらかされてしまったが……。……今なら教えてくれるのか?」
「うん、君になら話しても……、ううん、君には話しておきたいんだ。」
そう言うと、彼女はある昔話を語り始めた。
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