第4話

「かわいくない!」


「は?」


 円かった月が少し欠け始めたその日の第一声がこれである。そのまま謎の設計図を見せられる私の身にもなってほしい。

 ちなみにパン屋の息子に渡したものと同じタイプの照明を指さしている。確かに何の装飾もない武骨なデザインをしてはいるが……。


「……この照明は自分で使うものだからこうなのであってな……、欲しいのなら要望通りのものを作るぞ? 代金は貰うが。」


「だから設計図これ。」


「いや、最初の『かわいくない』と話が繋がらないんだが……。」


「せっかくだしお揃いにしよ? ほら、こっちの部品をお願い。わたしはガラスをいじるから。」


 そういうや否や彼女は作業を始める。こちらの文句を聞く気は無いようだ。


 ……相変わらず素晴らしい技術だ、思わず見入ってしまう。


「なーに? もしかして見惚れちゃったー?」


「ああ」


「―――!!」


「素晴らしい技術だ。これほど美しい魔法はなかなか見れないからな。思わず見惚れてしまう。」


「…………わかってたよ。わかってたけどさぁっ!!」


 からかうような問いかけに思わず正直に答える。……何かぶつぶつ言っているがよく聞こえない。まあ放っておいていいだろう。


 とにかくこちらも手を動かそう。持ってきた真鍮の棒材と板材に魔力を通す、充分に行き渡ったところで魔術を発動、すると意のままに真鍮が形を変え始める。あとは注文通りにやるだけだ。

 ちなみにガラスだとこう簡単にはいかない。やることは同じなのだが力加減が圧倒的に難しいのだ。向こうは涼しい顔でやってるが。



 いやしかし、そもそも―――


「なぜ照明でお揃いなんて考えたんだ……。」


「だって宝飾品なんて買わないでしょ?」


 ……正直否定できない。もっと他に適当なものがありそうではあるが……、


「…………文房具とかでは駄目なのか?。」


「……これが良かったんだ。」


「……どうして。」


「これは、わたしにとっての『象徴』なんだよ。」


「『象徴』?」


 君はすごいんだ、という前置き。それから堰を切ったように喋りだす。


「……だって、わたし知らなかったんだよ?

 君の考えた『水銀灯』の原理は私にとって久しぶりに見た『未知』だった。君の考える理論は今まで生きてきた中で初めて見るようなアプローチばかりだった。君の見せてくれるすべてが新鮮で、まるでみたい、で……、だから…………」


 しかし途端に尻すぼみに黙り込んでしまった。その理由が『あの人』なのは明らかだった。


「『あの人』というのは……?」


「……君みたいにわたしの友達になってくれた人。君とは全然似てないけどね。」


「その人は、もう……?」


「とっくの昔にね。」


「…………そう、か。」


 慈しむように柔らかく微笑み思い出を語る、それを美しいと思うと同時に、そんな彼女の中にいるのは『あの人』である事を意識すると、どうにも胸がざわついて仕方が無かった。

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