魔術師ギルドの依頼 1

 タカオと二人で朝食を食べてから、ギルドの掲示板を眺める。

 新しいクエストがないかと見渡してみるが、いつも通りの依頼しかなさそうだ。


 タカオが不満そうに言う。


「これだと今日もジャッカロープ退治だな、もっと刺激的なクエストが良いんだが……」


「他に討伐系のクエストは無いからしょうがないでしょ。それとも、たまには掃除系のクエストでもやってみる?」


「掃除なんて絶対に嫌だ! それなら、ジャッカロープ退治の方がマシだ!」


 結局、僕らはジャッカロープのクエストを受ける事になった。



 受付のエノーラさんに、タカオが声をかける。


「エノーラさん、ちょっとジャッカロープの狩りに行って来ます」


「はい、分りました。ところでユウリさん。午後から時間を空けて頂けないでしょうか。ご相談がありまして……」


「良いですけど、何でしょう? あっ、レストランで作る料理とかの話ですかね?」


「いいえ違います。お昼頃に魔術師まじゅつしギルドの方がきますので、そこで『城壁じょうへき』の魔法について説明して欲しいのです」


「ええ、別に良いですよ。では狩りを早めに切り上げて、お昼前には戻って来ますね」


『城壁』の魔法を使った時に、ちょっとした騒ぎになったりもしたが、それは魔法をあまり見慣れていない人たちだったからだろう。魔法に詳しい魔術師ギルドの人なら、あまり驚かないはずだ。軽く説明するだけで、すぐに理解してくれると思う。


 僕とタカオはあまり深く考えず、ジャッカロープ狩りへと出かけた。



 近隣の畑をチェックしながら歩き回る。午前中だけの狩りだったが、この日の成果は好調だった。短い時間にもかかわらず6匹のジャッカロープを倒し、街のギルドに戻ってきた。


 いったんギルド裏にある解体施設に行き、ジャッカロープの死骸を納めてから、待ち合わせ場所のギルドに戻る。


「俺の活躍、凄かっただろ? ジャンプして襲いかかって来たジャッカロープを、真っ二つにしてやったぜ!」


 タカオが今日の活躍を自慢する。確かに今日の戦闘は凄かった、一刀両断いっとうりょうだん、ジャッカロープを一撃で真っ二つにしていた。


「ああ、うん。凄かったね。でも、早めにお風呂に入った方が良いかも」


 真っ二つにしたのは良かったのだが、その後が酷かった。タカオは返り血や色々なものを頭から浴びてしまい、大変な目にあった。解体部隊の隊長のダルフさんから、ボロ布を渡されていているが、臭いまではぬぐいきれない。



 タカオが布で頭を拭きながら言う。


「確かに今すぐにでも風呂に入りたいが、昼から『魔術師ギルド』の連中に会うんだろ。俺が居ないと困るんじゃないかな?」


「でも、魔法の説明するだけだから、タカオが居なくても大丈夫じゃないかな? 冒険に関する話じゃないし……」


「まあ、そうかもしれないな。おっ、あの二人、いかにも魔術師って感じじゃないか?」



 タカオが指さした先には二人の見慣れない人物がテーブルに座っている。

 一人は、白くて長いヒゲを蓄えた、背の高いお爺さん。もう一人は、メガネを掛けた小柄な女の子だ。二人とも先の尖った三角形の帽子にローブ姿という、絵に描いたような魔法使いの格好をしていた。


 待ち合わせの人だと思うのだが、見た目だけで判断して、間違えると恥ずかしい。

 エノーラさんに声を掛けると、あの二人で、合っていたようだ。エノーラさんが僕らを紹介をする。


「お待たせしました。こちらが我々の冒険者ギルドに所属している、ユウリさんと、パートナーのタカオさんです」



 すると、背の高い老人は席を立ち、自己紹介をしてくれた。


「私はコルネリウス、学園都市バルカールにある、魔術師ギルドの研究所の室長をやっている。隣に居るのが弟子の……」


 小柄なメガネの女の子が立ち上がり、こう言った。


「弟子のアネットです、よろしくお願いします」



 頭からボロ布をかぶったまま、タカオが前に進み出て、アネットさんに握手をしようとする。


「俺はタカオって言うんだ。よろしくな」


「あ、はい。うっ!」


 アネットさんは少し嫌な顔をした。理由はハッキリしている。


「タカオくんと言ったかな。君、ちょっと臭いな。風呂にでも入ってきたらどうかね?」


 コルネリウスさんが、ズバッと核心を突いた。言いにくい事だと思うのだが、ハッキリと言う性格のようだ。


「あー、そうかもしれないな。先に風呂に行ってくるわ。ユウリ、後はよろしくな」


「うん、わかったよ。行ってらっしゃい」


 タカオは街の銭湯へと向って行った。のこされた僕が挨拶をする。


「ええと、ユウリと申します。冒険者をやっています」


「うむ、今日はよろしく頼むよ。では、さっそく本題に入ろうか」


「……はい」


 コルネリウスさんが、ギラギラとした視線で僕を見つめてくる。この人は、なかなか威圧感が凄い。タカオが居なくなって、心細くなってきた。一人で大丈夫だろうか……

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