遺跡とダンジョン 9
夜が明けて朝になる。僕が朝食の準備をしていると、タカオがふらふらと戻ってきた。
「バッチリ、罠の位置を覚えてきたぜ! 早くダンジョンに行こう!」
どうやらタカオは、徹夜でダンジョンの罠の位置を覚えてきたようだ。
僕が少し寝てから、ダンジョンに挑む事を勧めるが、タカオは、寝ると忘れるからこのまま行こうと言って聞かない。
しょうがないので、すぐにマクダさんを起こし、朝食を食べてからダンジョンへと進む。
ダンジョンの入り口には、相変わらず看板が掛かっている。
『リバーサイド・ダンジョンへようこそ。このダンジョンの難易度はEランク、年齢制限は6歳以上です。入場料は、大人は銀貨1枚、子供は銅貨5枚です』
「行くぜ! 命がけの冒険の始まりだ!」
タカオは張り切っているが、看板の文章を見ると気が抜けてくる。ここは本当に危険なダンジョンなのだろうか?
入場料を払い、ダンジョンの中に降りて行く。
地下1階に降りると、トレーニングエリアの看板がある。この階は、罠に赤い塗料で印がしてあるので、誰も引っかからないだろう。
なるべく罠の位置を覚えつつ、慎重に進んでいると、タカオがふらふらと床の赤い印に進んで行く。
「あっ、危ない!」
僕が肩をつかんで止めようとすると、タカオはクルッと向きを変えて、赤い印の横をすり抜けて行った。僕は避けられてしまって、バランスを崩す。そして、赤い印を踏んでしまった。
「ペチョ」
まぬけな音とともに、先が吸盤の矢が僕のほっぺたにくっついた。それを見て、タカオが不思議そうに言う。
「ユウリ、なにやってんだ? ちゃんと俺の後に着いてこいよ。そうすれば、罠には引っかからないぞ」
「……ああ、うん、分ったよ」
色々と言いたかったが、半分くらい寝ぼけているタカオに、あれこれ言っても無駄だと思う。僕は黙っている事にした。
罠の位置が見える地下1階を通り過ぎ、下に降りて地下2階に来た。
このエリアは、まだトレーニングエリアの中で、たとえ罠に引っかかったとしても、吸盤の矢が飛んでくるだけだ。このエリアまでは安心して進める。
マクダさんが僕に話しかけて来た。
「このエリアで、タカオくんが罠に引っかからないようなら、この先の下のエリアにも進めるかもね」
すると、タカオがこの会話を聞いていたようだ。
「本当ですか? 引っかからなかったら進む約束ですよ、マクダのあねご」
僕が割り込むように言う。
「まあ、引っかからなかったらの話だけどね」
「任せろって、みんな、俺の後に着いて来い!」
酔っ払いのように歩くタカオの後ろを僕らはついていく。すると、偶然かもしれないが、一度も罠にかからず、3階への下り階段の前まで来てしまった。
3階に下る階段の前には、こんな看板がある。
『この先は、ペナルティーエリアとなります。自信のない方は、右にある階段で地上へとお帰り下さい』
前に来た時は、右の階段で帰ったのだが、今回は話が違う。タカオは進む気でいる。
「罠に引っかからなかったから、約束どおり先に進むぜ!」
マクダさんが
「慎重に進むんだよ。危なくなったら引き返すからね」
「分ってますって」
タカオは返事をするのだが、危険性に関してはあまり分ってなさそうだ。階段を下り、地下3階に行く。
地下3階には、こんな看板がある。
『いよいよ最下層です。このペナルティーエリアさえ抜ければ、栄光のゴールが待っています、張り切って行きましょう!』
「ヒャッハー、ゴールはもう目の前だぜ!」
寝てないせいか、タカオはハイな状態らしく、
タカオは半分、寝ているような状態だが、罠の位置を完全に覚えているようで、引っかからずに進んで行く。ただ、不規則な歩き方をついていくのは非常に難しい。
タカオの後ろを歩いているつもりだったが、僕の足の下からカチャリと音がした。どうやら罠のスイッチを作動させてしまったようだ。
「あっ」
僕が反射的に声をあげると、マクダさんが大きな体で僕に覆いかぶさる。
「あぶない、ユウリくん!」
その後、すぐさま、「ベチョ」っとまぬけな音がする。マクダさんが体を起こしながら言う。
「あっ、これ、大丈夫だ。ここは安全なダンジョンだわ」
そう言って、体にひっついた矢を指さす。矢はの先端は、あいかわらず吸盤になっていて、怪我などはしていないようだ。
……そう言えば、入り口に『年齢制限は6歳以上』とか書かれていた気がする。やはりここはアトラクション施設のような『お遊び』のダンジョンなのだろう。
この後も、僕らはタカオの後をついて行くのだが、緊張感が抜けたせいか、罠を何度か作動させてしまい。僕とマクダさんの体には、それぞれ3~4本の矢がひっついた状態で、通路の終着地点に到着した。
通路の終りには大きな扉があり閉まっている。扉の上に看板があり、こんな文章が書いてある。
『この先には栄誉が待ち構えています。ただし、この先に進むには、ペナルティーエリアで被弾した矢の数だけ、銀貨をお支払い下さい。お金が払えない方は、右側の階段で地上にお戻り下さい』
よく見ると、扉にはコインを入れる穴が開いていた。
どうやら罠の位置を覚えず、ペナルティーエリアで矢をくらいまくっても、お金さえ払えば先に進めるようだ。
タカオが得意気に言う。
「あれ? 2人とも矢をくらってたのか? ちゃんと俺の後についてきたらくらわなかったのに。さあ、お金を払って先に進もうぜ」
するとマクダさんが反対をする。
「私とユウリくん、合わせて矢を7本もらってるんだ。銀貨7枚も払うんだったら、ここで帰っても良いんじゃないかな?」
「そんな! マクダのあねご、ここまで来たんですから、最後まで行きましょうよ!」
タカオが食い下がる。僕もタカオに賛成で進んだ方が良いと思う。
もし、ここで引き返すような事になったら、タカオはまた、この施設に来たがるだろう。そうなると面倒くさい。
ここは僕がお金を出しておこう。
「まあ、ここは僕がお金を払うんで、最後まで行きましょう」
「……本当? 悪いわね」
マクダさんが申しわけなさそうに言う。
銀貨を7枚、コインを入れる穴に入れると、ガチャンと大きな音がして扉が開いた。
扉の中は部屋になっていて、中央に小さなテーブルが一つ置いてある。そして、注意書きが書いてあった。
『ギルドカードか会員カードを、テーブルの上に置いて下さい』
「よし、置くぜ」
みんなはギルドカードを取り出して、テーブルの上に置くと、ブゥンとテーブルが光り、こんなアナウンスが流れる。
「『リバーサイド・ダンジョン』の攻略、おめでとうございます。ダンジョンをクリアの記録を、ギルドカードに記述しました。お帰りはこの先の階段です、またの起こしをお待ちしております」
ギルドカードを確認すると、
マクダさんが悲鳴に近い声をあげる。
「……これだけ? これならお金を払わず、帰った方がよかったじゃん」
僕がマクダさんをなだめる。
「まあまあ、最後まで調査できてよかったんじゃないでしょうか。冒険者ギルドにも、ちゃんと最後まで行った事を報告できますし」
「うーん、そう言われると、そうかもねぇ。最後まで行ったから、報酬が上がれば良いんだけど……」
そんな話をしている横で、タカオが少し興奮しながら、独り言をつぶやく。
「ふふっ、やった『リバーサイド・ダンジョン』を攻略してやったぜ! ダンジョンは他にいくつもあるだろうから、全部をクリアしてやろう!」
こんな、アトラクションの施設みたいなダンジョンを巡るつもりだろうか……
このタカオの独り言は、聞かなかった事にしよう。
僕らは地上へと続く階段を上り、外に出る。
帰り道は順調で、何事も無く街にたどり着く。
こうして、遊びのような、初めてのダンジョン攻略が終わった。
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