配達クエスト 9

 僕はタカオのリクエストに応えて、グラタンを作る事になった。

 作り方は簡単なので、牧場のお婆さんに教えながら一緒に作る。


「始めにホワイトソースという物を作ります。フライパンにバターを入れて、小麦粉を入れます。弱火で炒めていって、バターが溶けきったら、少しずつ牛乳を入れていくだけです」


「これなら簡単に作れるのう。次は何をすれば良いんじゃ?」


「ホワイトソースが完成した後は、深さのあるお皿に移して、マカロニとお好みの具材を入れて、チーズをかけてオーブンで温めればできあがりです」


「マカロニとやらは、どこで手にはいるかの?」


「ええと、お店に行けば売ってますが…… 牧場だと遠いですよね。あっ、そうだ。この食材でもできますよ」


 僕は台所に山のように置いてあったジャガイモを使って、もう1皿、ポテトグラタンを作った。このグラタンだったら、買い物をしなくても、牧場で取れる食材だけで作れそうだ。



 オーブンにいれて15分ほど経つと、チーズの良い匂いが漂ってきた。どうやら出来上がったようなので、オーブンからグラタンを取り出して、テーブルに並べる。


「グラタンが出来上がりました。熱いので気をつけて食べて下さい」


「美味そうだ、いただきます! あちっ、あちち、舌を火傷やけどした。ユウリ、ヒールを掛けてくれ」


 タカオが、あまり冷まさずに口に放り込んで、火傷をしたようだ。


「しょうがないな、もっと落ち着いて食べなよ。この者の傷を治せ『回復の息吹ヒール』」


 ヒールを掛けると、タカオは水を飲みながら言う。


「ありがとうユウリ。このグラタン、熱かったけどものすごく美味しいぜ!」



 僕とタカオが、そんなやり取りをしていると、ジェフリーお爺さんが申し訳なさそうに言う。


「すまんのじゃが、儂にもヒールを掛けてくれんかのう。舌を火傷してしもうた」


 お婆さんも、こう言った。


「私にもお願いできるかの。匂いにつられて、一気にほおばったら、やってしもうた」


「……あっ、はい。お二人の傷を治せ『回復の息吹ヒール』」


 とろみのついたホワイトソースは、舌にまとわりつく。食べ慣れていない人は、確かに火傷してしまうかもしれない。



 火傷する人が続出したので、僕は充分に冷ましてから食べる。

 新鮮な牛乳を使ったグラタンは、とてもクリーミーでコクがあり、口の中にいれると旨みが広がっていく。中でもチーズは絶品で、味と香りが最高だ。

 グラタンは少し多めに作ったつもりだったが、あっという間に無くなった。


 タカオが腹をさすりながら、満足そうに言う。


「はあ、食った食った。美味かったぜ。じいさんとばあさんは、この料理はどうだった?」


「ああ、最高に美味かったわい。年甲斐としがいも無く、腹いっぱいに食ってしまったわ」


「私もですよ。そうそう、作り方は教わったので、いつでも作ってあげますよ、お爺さん」


「なんと! では、明日も頼むぞ」


「はいはい」


 よかった。二人とも、この料理をかなり気に入ってくれたらしい。



「ふう、腹いっぱいに食ったら、眠くなってきたな……」


「客間に案内しよう。こっちの部屋じゃよ」


 お爺さんに連れられて、客間に通された。

 今日は朝から歩きめだったので、僕らはベッドに入るとすぐに眠りに落ちた。



 翌朝、僕らはお婆さんに起こされる。


「朝食ができましたよ。簡単な物ですけどね」


「ありがとうございます。今、行きます」


 僕はタカオを起こし、簡単な身支度をして食堂へと向った。



 食堂にはパンとチーズとハム、そして牛乳が並べられていた。タカオが素早くテーブルの席につく。


「おお、これぞ朝食って感じだな。美味そうだ、食おうぜユウリ」


「もう、ちゃんと挨拶をしてからだよ。あれ、ジェフリーさんはどうしました?」


「食事を済ませて、牛の世話に出かけて行ってますよ。お爺さんの事は気にしないで、たくさんお食べなさい」


「はい、では、いただきます」


「いただきます」


 パンにチーズとハムを挟んで食べ始める。口の中に入れると、柔らかい焼きたてのパンと、しっとりとしたチーズ、そこに厚切りのハムが調和する。シンプルながら、最高の組み合わせだ。



「うめぇ。このチーズ」


「美味しいね。街で食べたチーズは、ボソボソと乾燥していて、あまり美味しくなかったけど、これは全然違うね」


「ああ、出来るだけこのチーズを買って行こうぜ。ユウリの倉庫魔法だと腐らないしな」


「そうだ、牛乳も売ってもらえるなら買っていこうか。色々と料理に使えるだろうし」


 そんな話をしながら食事をしていると、ジェフリーさんが戻ってきた。



 ジェフリーさんは驚いた表情で僕たちに聞く。


「一部の牧草が、急激に生長しておるのじゃが、お前さんら、何かやったのか?」


 僕が昨日の事を思い出しながら答える。


「ええと、肥料をいた以外は、特に何もしていないような……」


 それを聞いたタカオが、こう言った。


「いや、ユウリはそこら辺の草に、『ヒール』や『キュアー』の魔法を掛けていただろ。それが原因じゃないか?」


「えっ? そうなのかな?」


「まあ、一度、外に来て見てくれ」


 僕らはジェフリーさんに連れられて、家の外に出る。

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