護衛任務 6

 天つゆと天丼のタレが出来上がると、いよいよ天ぷらを揚げる作業に取りかかる。


マイ我がロード主よ、天ぷらの衣を作る時は、氷水こおりみずで小麦粉を溶くのが理想です。冷たい水はありますか?」


 天ぷら用の鍋に変身した、エルビルト・シオールから聞かれる。


「氷を作る魔法道具を持っているから、今から作るね」


 倉庫魔法から魔法道具を取り出し、水を入れ『冷却』の魔法を使う。すると、あっという間に氷が出来上がる。


「マイ・ロード、さすがです。あとは小麦粉をサッと混ぜれば衣の出来上がりです。油の温度も適温になりました、揚げていきましょう」



 カボチャに小麦粉をまぶして、軽く衣をつけて揚げて行く。油に入れると、ジュっと音がして、カラカラカラと心地よい音がする。


「マイ・ロード、右端のカボチャをひっくり返して下さい。左端はそろそろ出来上がります。3、2、1、今です、引き上げて下さい」


「はい、引き上げた。次はナスを揚げるね」


 カボチャ、ナス、ニンジンと、次から次へと揚げて行く。揚げ終わった物は、倉庫魔法にしまう。これで、いつでも揚げたてが食べられる。



「ユウリ~、もうそろそろ味見をさせてくれよ~」


 タカオが泣きながらやって来た。おそらくタマネギを切っていたからだろう。

 僕は涙を流しているタカオに、次の指示を出す。


「次はプチトマトのへたを取ってくれない。そして、お店で買って置いたベーコンを巻いて、串で止めてくれないかな。これが揚がったら試食させてあげるから」


「……それ、絶対にうまいヤツじゃないか。よし、プチトマトの作業をとっとと終わらすわ!」


 タカオがものすごい早さでプチトマトとベーコンを串に刺していく。多少、形が崩れている部分もあるけど、僕らは素人なので、そこまで気にしないでも良いだろう。



 タマネギと野菜のかき揚げが揚げ終わるころに、タカオが大皿一杯のプチトマトの串を持ってきた。


「ああ、疲れた。早く揚げて食べさせてくれ」


「ちょっと待ってね、今、揚げるから」


 プチトマトの串に衣をつけて、油の中へと放り込む。やがて、聞えてくる音と、出てくる泡が小さくなってきた、もう完成したようだ。


「熱いから気をつけてね」


「おっ、これは甘みが強くなって上手いな。ベーコンとの相性とも最高だぜ。どれ、もうひとつ……」


 タカオが二つ目を食べようとしたので、僕は素早く倉庫魔法にしまった。


「ほら、今食べると、晩ご飯に食べられなくなるよ。どうせなら、冷えたエールを飲みながら、食べたいでしょ」


「……うん、そうだな。冷えたエールとも相性がよさそうだ。我慢するか」


 タカオがグッとこらえる。空腹で我慢をすると、おそらくもっとご飯が美味しく感じるだろう。


 この後、ジャッカロープのささみの部分を天ぷらにすると。天ぷらは完成だ。

 次に、お釜に変身したエルビルト・シオールでお米を炊いて、晩ご飯が出来上がった。



 ご飯が出来上がる頃には、日が傾いてきた。親方が建築ギルドのメンバーに言う。


「そろそろ暗くなってくる頃だ。簡単な後片付けをして今日は終りにするぞ」


「へい」「わかりました」


 職人さんたちは、軽く後片付けをすると、材木置き場へと集まる。

 材木置き場は、資材を置いただけの、簡単なテーブルと椅子が出来ているからだ。


 親方は再び、職人さんたちに言った。


「ちょっと、施工主の農家さんを呼んでくる。お前らは、食事前に手をちゃんと洗っておけよ」


「あっ、それなら、僕が何とかします。体の汚れと服の汚れを落とせ『領域洗浄りょういきせんじょう』」


 僕が魔法を使うと、汚れが全て落ちた。やはり魔法は便利すぎる。


「お、おう。じゃあ、大人しくまってろよ」


 親方が呼びに行き、農家さんと奥さん、子供さんを連れてきた。



 全員が席に着き、食器を配り終わると、いよいよ料理を出す。

 倉庫魔法から、作った天ぷらの半分ほどを、一気にテーブルに並べた。僕が軽く説明をする。


「ええと、天ぷらと言って、野菜や肉などを油で揚げた料理ですね。塩を少し付けるか、天つゆというソースにくぐらせてから食べて下さい。熱いですので気をつけて……」


「プチトマトとベーコンの天ぷら、いただきぃ!」


 説明している途中で、タカオが手を出す。


「うめぇ~ やっぱし、よく冷えたエールと相性が抜群だ!」


 それを見て、親方によく殴られていた若手の人も手を出す。


「俺も、もう待てねぇ。おっ、なんだこのニンジン、有り得ないほど甘みがあるぜ」


「てめー、ずるいぞ。それは俺が先に目をつけていたんだ!」


 これを切っ掛けに、みんな争うように天ぷらを食べ始めた。

 僕は、料理の感想を聞きたかったが、それどころではなくなってしまった。

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