雨の日の買い物 1

 ギルドを出た僕たちは、とりあえず雨具を買いに店に行く。

 この街の店は、大きく分けて2つある。一つは、ちゃんとした店舗を構えているお店。もう一つは、自由市場と呼ばれるスペースで、個人が自由に物を売れる、フリーマーケットのスペースだ。


 この自由市場、屋根はついているのだが、今日は雨なのでほとんど出店者がいない。そんな中で、一軒の出店が出ていた。それは遠目からでも分る、傘やカッパのような物が並んでいる雨具屋だ。


 僕とタカオがこの店に近づくと、店のおじさん声を掛けられた。


「いらっしゃい。雨具をお求めですね」


 雨が降っているのに、雨具を何も身につけていない僕らは、絶好のお客さんだろう。

 いくつか種類があるようなので、僕が聞いてみる。


「僕たち冒険者なんですが、冒険者向きの雨具って何かあります?」


「それだと、手に持つタイプはやめた方がいいね。冒険者だったら、両手が空いていた方がいいでしょ。お手頃な価格のものだと、コレがオススメだよ」



 店員さんは、すっぽりと体を包む、着ぐるみのような服を取り出して来た。そして説明をしてくれる。


「これは『大まんじゅうカエル』の皮を剥いで作った、カッパだ。完全防水で、まったく水が入ってこない優れ物だよ。値段も安いし頑丈がんじょうなんだ」


 すると、タカオが文句を言う。


「いや、これ、大きなカエルの皮を剥いだだけだろ? かっこ悪いから他のはないのか」


 よく見ると、フードの部分はカエルの顔そのままだった。防水は完璧だろうけど、これは気持ちが悪い。



「お嬢さんたちには、ちょっと見てくれが悪かったか…… では、この『かさたけ』はどうだい、見た目は普通の傘だけど、柄の部分がどこにでもくっつくから、適当な場所につけておけば手ぶらで傘がさせるよ」


「おっ、シックな傘で良いな」


 タカオが良い感触を見せると、店員さんはすかさず売り込んでくる。


「お値段もかなり安いから、お買い得だ。これとか、消費期限が迫っているから、銅貨3枚でどうだい?」


「消費期限? もしかして、これ、なまものですか?」


 僕が店員さんに聞くと、驚いた様子で答えてくれる。


「そうだよ。もしかしてこのキノコ知らないのかい? 使用後にはスープの具材にもなる、優れ物だけど?」


 あきれた感じでタカオが店員さんに言う。


「普通の雨具はないのかな?」



「うーん、今までのも普通なんだけど、それなら、これとかどうだい?」


 そう言って、ポンチョのようなコートと、麦わら帽子みたいな、ツバの大きな帽子を出して来た。いずれもビニールのような素材で水を弾くようだ。


 タカオがちょっと形の変った帽子をかぶり、カッコをつける。


「これ、ちょっと三度笠さんどがさっぽくないか。その合羽かっぱと合わせると、時代劇ぽい感じで悪くないな」


「そうだね、格好いいかも。これ、いくらですか?」


「それは銀貨3枚だね。格好を気にするなら、革製のもあるよ。水を弾く加工がしてあって、普通のと比べると値段が張るけど」


 格好が良いと言われて、タカオが食いついた。


「それを見せてくれ。いくらくらいするんだ?」


「これは銀貨12枚だね。値段が高い分、耐久性が抜群ばつぐんだよ」


 牛革をなめしたような、茶色いレザーのコートが出てきた。タカオはそれに目を奪われる。


「これ良いな。俺はコレが良い。ユウリもこれにしろよ」


「他の色とかあります? できれば明るい色があれば」


「白や黄色やピンクもあるよ」


「じゃあ、白でお願いします」


「毎度あり。皮の手入れ用のワックスもオマケでつけるから、たまに手入れをしてやってあげてね」


「ありがとうございます」「ありがと、おっちゃん」


 僕たちは真新しいコートを着て、雨の街を歩き始めた。



 街外れのロジャーさんの道具屋へとやって来た。

 雨なので他にお客さんは居なそうだ。僕はロジャーさんに声を掛ける。


「すいません。道具を見せて下さい」


「おう、お前らか。今日は何を見に来たんだ」


「生活魔法を覚えたので、それに関する魔法道具を見に来ました」


「昨日は覚えて居なかったよな。まあいいや、生活魔法って言っても色々と種類がある。いったい何を覚えたんだ?」


「『発熱』『冷却』『製水』『洗浄』『整地』ですね」


「……なんか、一通り覚えちまった感じだな。まあ順番に見て行くか、こっちについてきな」


 僕らはロジャーさんの後について、商品がみっちり並んでいる店の中へと入って行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る