はじめてのスキル取得 1

 レベルが上がり、僕らは真っ直ぐ街へと戻ってきた。

 ギルドに戻ってきたタカオは、受付係のエノーラさんへ報告をする。


「エノーラさん、俺、レベルが上がったんだぜ、これで新たなスキルが取得できるんだろう?」


「ええ、ですがその前に、ジャッカロープの納品をして来てはいかがでしょう」


「わかった、ちょっと行ってくるよ」


 僕らは裏手の解体施設に行き、解体の責任者のダルフさんに話しかける。

 縄張り争いの大乱戦で、傷だらけになったジャッカロープの死骸は、毛皮の査定で減額されたものの、合計で銀貨42枚のお金になった。日本円に直すと4万2千円ほど、今日はかなり稼げた。



 換金が終わると、僕らは再びギルドの受付に戻る。タカオが再びエノーラさんに声を掛ける。


「ジャッカロープを金に換えてきたぜ。それでスキルなんだけど、どうすれば良い?」


「まずは、現状で取得できるスキルを調べないといけません。こちらの魔法道具まほうどうぐの前にいらして下さい」


 僕らは黒い石版の前に連れてこられた。エノーラさんが詳しく説明してくれる。


「これは、『進化樹しんかじゅ羅針盤らしんばん』と呼ばれる魔法道具で、取得できるスキルを系統ごとに解りやすく表示してくれます。まずはタカオさん、やってみますか」


「やるぜ、どうすれば良い?」


「石版の下のほうに手を置いて、しばらくじっとしていて下さい」


「分った、こうかな」


 タカオが言われた通りにすると、石版に文字が浮かび上がった。



◇戦士系

 ・剣修練 必要ポイント1

 ・強撃きょうげき 必要ポイント1

◇シーフ系

 ・弱点攻撃 必要ポイント1

 ・忍び足 必要ポイント1

 ・回避修練 必要ポイント1

◇特別スキル

 ・花吹雪はなふぶき(エフェクト)必要ポイント2



 文字が浮き出ると、エノーラさんが説明してくれる。


「これがタカオさんの取得できるスキルです。『花吹雪』という、特別スキルが出ていますが、他には一般的な戦闘系のスキルがほとんどですね。ちなみに取得できるスキルは、冒険で体験した経験に、色濃く反映されます」


「なるほど、ジャッカロープと殴り合ってばかり居たから、その手のスキルが多いわけか。さて、俺のスキルポイントは3ポイントある訳だが、まずは『花吹雪』を取るか。残り1ポイントは……『強撃きょうげき』に決まりだな」


 変なスキルを取ろうとするタカオを、僕が止める。


「ちょっと待って。『エフェクト』って、おそらく見た目が変るだけだよね?」


 スキルに詳しいエノーラさんも補足をしてくれる。


「ええ、そうだと思います。攻撃力や命中力の上がる『剣修練』や、敵の弱点を見極めやすくなる『弱点攻撃』など、他のスキルの方が良いと思いますよ」


 その意見を聞いて、タカオが真剣な顔で、こんな質問をする。


「エノーラさん、『花吹雪』ってスキルは珍しいんだろ?」


「ええ、私は初めて見ましたし、聞いた事もありません」


「じゃあ決まりだ。俺は『花吹雪』を取るぜ!」



 エノーラさんがあきれながら確認をする。


「……タカオさん、決心は硬いようですね」


「ああ、絶対に『花吹雪』のスキルを取る!」


「では、それで構いません。取得したいスキルをイメージして、こちらの『英知えいちの大水晶』にひたいをつけて下さい」


 金の装飾のついた1メートルくらいある、大きな水晶の前に連れてこられた。


「こんな感じかな?」


 タカオが額をつけると、水晶がポウッと光を放つ。



 光はすぐに収まると、タカオがスッキリとした顔で、こう言った。


「なるほど、こうやってスキルを覚えるのか。さっそく『花吹雪』使ってみるぜ」


 タカオがスキルを使ったらしい。どこからともなく桜の花びらがヒラヒラと落ちてくる。


 僕は思わずタカオに聞いてしまう。


「これだけ?」


「いや、ちょっと見てくれ。素振りをするから」


 タカオはさやをつけたまま、軽く刀を振った。すると、刀の太刀筋たちすじに、桜の花びらが舞い散る。


 僕があきれながらも言う。


「確かに見た目は凄く良いね」


「そうだろう。最高にかっこいいだろう」


 本当は役に立つスキルを取って欲しかったが…… まあ、タカオが満足そうなら、それでも良いか。ここは『Zランク』の、最も難度の低い異世界だから、おそらくなんとかなるだろう。

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