女神の実力 1

「緊急事態だ! けが人が出た、至急、緊急手配を頼む!」


 叫び声がギルド内に響き渡り、緊張感が一気に高まった。ギルドの受付員のエノーラさんが、連絡に来た人に走り寄り、話を聞き出す。


「けがの具合はどのレベルです」


「深刻だ。高い場所から落ちて、足の骨が折れて、外に飛び出ちまってる。応急処置で止血をしてココに運んでいるが出血が酷い」


「それは命に関わりますね。困りました、ヒールの『中級』を使えるフランツさんは、護衛任務に出ていて、2~3日は帰ってきません」


「それだと『転送門テレポートゲート』を開いて、別の場所からヒーラーを連れて来るしかないな」


「ええ、それしかないと思います。けがの具合によっては、足の切断も考えて置いて下さい」


「ああ、覚悟は出来ている……」


 非常に深刻な話をしている。下手をすると足の切断をしないといけないらしい、かなり悲惨な状態だ。



 そんなやり取りをしていると、ギルド内にリアカーが走り込んできた。荷台には人が乗って居て、ズボンは真っ赤に染まっている。エノーラさんの的確な指示が飛ぶ。


「ユウリさんは、『初級』のヒールが使えましたよね。ヒールを掛けて、少しでも出血を止めて下さい! 私はその間に、他の街に連絡を取り『上級』のヒールが使える人を手配します」


「わかりました」


 僕はリアカーに駆け寄り、けが人のそばに寄る。


「うぐ、うぅ」


 うめき声をあげ、顔は凄い脂汗あぶらあせをかいていた。僕はすぐさまヒールを使う。


「この者の傷を癒やせ『回復の息吹ヒール』」


 バキバキ、ベキィ「ぐああぁぁぁ!」


 僕は回復魔法をかけたというのに、足からすさまじい音が聞え、怪我をした人が苦しがる。まさか、この大事な場面で、僕は魔法を失敗してしまったのか?



「てめぇ、なにしてるんだ」


 連絡に走ってきた人が、僕の胸ぐらをつかんで、すごい剣幕けんまくでまくし立てられる。


「す、すいません。わざとじゃないんです」


 僕が必死で謝っていると、後ろの方から声をかけられた。


「親方、待って下さい。痛みが嘘のように引きました」


「なんだってクリフ。傷口はどうなったんだ、見せてみろ」


 クリフさんは血まみれのズボンをゆっくりと上げる。すると、そこには傷一つない足があった。



 親方と呼ばれた人が、驚いて声を上げる。


「なんてこった。傷がきえちまったぞ!」


「本当ですか? 私にもみせて下さい!」


 エノーラさんが慌てて駆け寄って来て、クリフさんの足を、見たり触ったりして確認をしている。


「傷がまるでありませんね……」


 その様子を見ていたタカオが、こんな事を言う。


「そのスネ毛が無くなってる部分が、傷跡じゃないのか?」


 けが人だったクリフさんは、足を撫でながら言った。


「そうですね。この部分が傷跡だったと思います。全く痛くないので、立ち上がってみたいのですが」


「無理するんじゃねえぞ」


 親方はそう言って肩を貸す。クリフさんは支えられて立ち上がり、色々と確認をすると、やがて一人で歩き始めた。どうやら完全に治ったらしい。



 緊張した空気が、一気にやわらぐ。すると、親方と呼ばれた人が、僕に謝りに来た。


「さっきはすまねぇ。カッとなっちまって。まさか嬢ちゃんがこんな凄いヒーラーだとは知らなかったんだ」


「いえ、僕もここまで効くとは思ってませんでした。擦り傷ぐらいにしか使った事がありませんから」


「さてと、さっそくだが報酬の件を話し合うか。エノーラさん『転送門テレポートゲート』を使って、『上級』のヒーラーを呼んだ場合は、幾らくらいかかりそうだ?」


「そうですね。繋ぐ場所によって違いますが『転送門』の費用だけで金貨15~30枚。『上級』のヒーラーの報酬が金貨20~40枚といった所でしょうか」


「まあ、普通は、そのくらいが相場だな」


 確か金貨1枚が1万円くらいだったハズ。けがを治療するだけで、そんなに金が掛かるのか……



「え、ええと。僕はたまたま居合わせただけなので、もっと安くても良いんじゃないでしょうか」


 値段が高くなりそうなので、僕が安くなるように言うと、エノーラさんがこんな提案をする。


「では、『転送門』の値段は考慮しない様にしましょう。今回は、実際に使わなかったのですから」


「それは助かる。だが問題はヒーラーの報酬だな」


「ええ、『上級』のヒールだと、傷はある程度は治せますが、骨折だとしばらくギプスでの生活になるはずです。あのように骨がつながるなんて、聞いた事がありません」


「ああ、幾らふんだくられるのか、全く分からないな……」


 二人は僕の顔をジッと見る。えっ? この流れだと、僕が値段を決めるのだろうか?

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