気がつけば異世界

 足元に魔方陣が現われ、光に包まれたと思ったら、僕と佐藤さとうタカオは見知らぬ場所に居た。


 見晴らしの良い草原が続き、かなり先に城壁に囲まれた街が見える。

 この場所はヨーロッパの田舎に見えない事もないが、青い空には土星のような、輪っかを付けた月が浮かんでいる、ここは間違いなく異世界だろう。


「やったぜ! 念願の異世界にやってきたぜ!」


 佐藤タカオはテンションが、これ以上なく上がっていた。



「なんで僕が……」


 こっちのテンションが下がりきっていると、「プルルルルル」と電話の音がして、そばにあった神託しんたくスクリーンに受話器のアイコンが表示される。画面をタッチして、通話を受け取ると、女神マグノリアス様の声が聞えてきた。


「異世界に飛ばされましたか。最近、時々居るのですよね、女神を異世界に連れて行こうとする人が」


「これ、どうにかならないんですか?」


「もう飛ばされてしまったので、どうにもなりません。神としてのレベルが高ければ、飛ばされる前に抵抗とか出来るんですが、あなたは神に成ったばかりですからね。全く抵抗できなかったんでしょう」



 困ったぞ、これから僕はどうすれば良いんだ? とりあえず戻る方法を聞いておこう。


「僕が、あの天国みたいな場所に帰る方法はあるのですか?」


「天界に戻る方法ですね。佐藤タカオの願いは『女神様と一緒に、異世界を冒険したい』ですので、厄介やっかいです。『一緒』という条件なので、勇者の魂がその世界にいるうちは、あなたもその異世界に束縛そくばくされてしまいます。勇者の魂が異世界から離れれば、あなたは自由になれるのですが……」


「そんな事なんてあるんでしょうか?」


「2つのケースがありますね。ひとつは、その異世界の魔王を倒し、世界が平和になって勇者が必要なくなった時。もう一つは、その勇者が神の力でも復活もできないくらい、無残むざんに死んだ時です。あなたがぐにでも天界に帰りたいなら、佐藤タカオを粉砕ふんさいして戻って来る事もできますが、どうします?」


「いえ、それはあまりにもかわいそうなので、魔王を倒して戻りたいと思います」


「そうですね。異世界の勉強にもなるので、それが良いかもしれません。それでは念話ねんわをいったん切ります。何かあれば、神託スクリーンから連絡先を開いて、念話をかけて下さい。いつでも相談に乗りますよ」


 そう言うと、女神マグノリアス様の声は聞えなくなった。どうやら、神様の世界でも電話は普及しているようだ。



「クソみたいな世界から抜け出して、俺はとうとうやって来たんだ。これが初期装備か、刃が黒い日本刀。最高に格好いいじゃないか!」


 テンションが上がっている佐藤タカオに、僕は文句を言う。


「なんで巻き込んだのですか! 神を異世界の冒険に借り出すなんて、そんなのルール違反でしょう!」


「そんなに怒るなよ、俺の知ってる異世界モノの小説だと、よくある出来事だぜ。仲良くやっていこう、これからこの異世界を攻略するパートナーじゃないか」


 悪びれずに佐藤タカオは言う。パートナーなどと言われると、なぜか悪い気はしない。

 テンションの高い佐藤タカオは、一方的に僕に向って話を続ける。


「それに、こんなに可愛かわいくて美しい女神様がいたら、思わず連れて行きたいと思うだろ?」


 男に『可愛い』とか言われても…… あれ? なんか嬉しい気がする。


「ここは異世界だから、これからは名前だけで呼び合おうぜ! パートナー同士だからな」


「じゃあ、タ、タカオでいいかな?」


「そう。俺はユウリって呼ぶけど良いだろ?」


「あっ、うん良いよ」


 僕は顔を赤らめながら答える。なんでだろう、タカオと特別な関係が気づけたので、とても幸福な気分になってきた。もしかして僕は、この男を事を好きになっているのでは……



 ここで僕は重要な事を思い出した。僕はタカオに、スキル『神秘的な魅力』を渡している。


 このスキルは『異性』からの好感度を上げるという能力だったはずだ。

 僕は今、女神になっている。女神でも『異性』に変りは無いのだろう。その証拠にタカオに対して、凄い勢いで好感度が跳ね上がっているのを感じている。


「ちょっと、タカオ、いったん離れてくれる?」


 僕は、顔を真っ赤にしながら言う。離れれば、スキルの効果範囲から逃れるかもしれない。


「あれ? もしかして『神秘的な魅力』が効いて、俺の事を好きになりかけてる?」


 ……この男、もしかして気がついているのか?


「いやぁ、そんな事はないよぉ……」


 一応、否定してみるものの、これは態度でバレてる気がする。


「そうなのか? スキル効いてるように見えるんだけどな。じゃあ、確認してみよう。おっぱい揉ませてよ」


「へっ?」


 変な声が出てしまった。僕の胸を揉むって、この男は何を考えているんだ!



「うーん。言い方が悪かったのかな。俺におっぱいを揉ませてくれ、そうすれば俺はお前の事をもっと好きになれるはずだ!」


 真面目な顔をして、何を言っているんだこの男は。でも、まてよ。僕の事をもっと好きになってもらえるなら、胸を揉ませるくらい構わないんじゃ……

 いやいや、待て! 胸を揉ませる要求を許したら、どんどんと要求がエスカレートして行ってしまう気がする。その先に行き着く行為は…… このままでは僕の貞操ていそうの危機だ。まずい、どうしよう。


「あっ、そうだ! 『神のいたずら、性別の反転』」


 僕は咄嗟とっさに女神マグノリアス様にやられた魔法と同じ物をタカオに向けて放った。すると、小さないなずまが出て直撃する。電撃に当ったタカオの体は、見る間に女性に変っていく。


 スキル『神秘的な魅力』は『異性』にしか効かない。僕とタカオと同性になったので、急激に上がった好感度の高まりが、一気に冷めてきた。


「なんじゃこりゃぁああ! 俺のちん○が無くなってるぅぅ!」


 タカオの壮絶な悲鳴が、辺りに響き渡った。

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