第71話 宇宙巡洋艦内部

「ここは……どこだ?」


 見たことのない内装をした建物内に、俺とリリアンネは立っていた。

 全体的に青い、しかし暗くはない感じの色合いで、窓であろう場所からは宇宙が見える。すぐ近くに、地球があった。


「宇宙……なのか?」

『その通りです。ここは地球のすぐ近く。私たちアークティア人は、使命として、そして自らの持つ信念に従って地球を見守っているのです。何千年、何万年と前から』

「そりゃどうも……。俺なんかでいいのかわかりませんけど、いちおう地球人代表としてお礼は言います」


 ややぶっきらぼうになったが、リリアンネもアークティア人も咎めなかった。やっぱり、全てを肯定するという性格は本当だった。


『さて、せっかくお越しいただいたのに、いつまでも姿を見せないのは失礼ですね』


 その声と同時に、女性が三人やって来る。

 髪色や背丈、ついでにおっぱいの大きさがいくらか違っていたが、三人ともリリアンネとよく似た雰囲気を放っていた。同じアークティア人、ということか。


「あれ……女性? 本当の姿は……?」

「おや、よくご存知ですね。もちろんこの姿は仮の姿です。ですが、士道勇太さん。あなたの好みを考慮した結果、やはりエロゲーに登場する女性の姿で接するのが適当かと思いました」


 うーん、正直一度は本来の姿を見たかったぞ。


「申し訳ありません。まだお見せするには、時期が早いのですよ。我々がもっと認知され、受け入れられてから、ようやく叶うことなのです」

「認知は、されているんじゃないのか?」

「はい。確かに、その通りです」


 今ひとつ、会話が噛み合わない。初めてリリアンネと話したときを、うっすらとだが彷彿ほうふつとさせる。


「そろそろ要件に入りましょうか。士道勇太さん、あなたをお呼びした理由です」

「何でしょうか?」


 穏やかな声音だが、何か用心すべき予感がしたので身構える。

 女性の姿をしたアークティア人から放たれた言葉は、驚くべきものだった。


「あなたも、アークティア人になりませんか?」


 俺はまず、絶句して固まった。

 しばらくの間をおいて、ようやく言葉が出る。


「俺が、アークティア人に……?」

「はい。我々の存在を広めるために、ご協力いただきたいのです」

「それは……」


 全てを肯定して受け入れるアークティア人の特性は知っていたが、それでも抵抗があった。


「確か……地球人からアークティア人になる手術は、一度受けたら不可逆だったはず」

「よくご存知ですね。その通りです、一度私たちアークティア人になればもう戻れない。少なくとも体の組成は、アークティア人として生きていくのです」


 やはり、俺の得た知識は正しかった。


「ご安心ください。既に何人もの希望者に同様の手術を施し、すべて成功しています。それに、すべての方をアークティア人にするつもりはありません。あくまで我々が見込んだ方のみ。地球上の1%に満たない数です」

「それはわかったが……どうして俺たち地球人を、アークティア人にする?」


 わざわざそんな手間をかける必要はあるのだろうか。単に広めたいだけなら、アークティア人に対して信心深い人に一言頼むだけでいい気がする。

 俺が疑問に思っていると、それを読み取ったアークティア人が話しだした。


「もちろん、決断されるのは当人の意思ですので、強要はしません。拒絶されれば、なにもせずにお帰しします。どちらを選んでも構いません。その上で、聞いていただきたいのです」

「何だ?」

「あなたはリリアンネと、家族に近しい関係にある。そうですね?」

「? 何を今さら……」


 リリアンネに直接聞けば、わかるはずだ。そもそも、リリアンネから伝わってるはずじゃないのか?


「肯定と受け取ります」

「もともとそのつもりなんだがな。見てたはずじゃないのか、俺たちの暮らし」

「はい。これはあくまで確認です」


 確認? 俺とリリアンネの関係を確かめて……何がしたいんだ?


「では、尋ねさせていただきます。地球人と比して、アークティア人は何十倍、何百倍もの寿命がある。これもご存知でしょうか?」

「だから何を……ッ、まさか!」


 何が言いたいのか、察してしまった。

 今リリアンネが何歳なのかはわからないが、そして寿命がどのくらいまであるのかは、正確にはわかっていない。

 だが、一つだけ確かなことがある。このままでは、俺が先に死ぬ。どう考えても、間違えようのない話だ。


 まさか、それを考えてアークティア人は俺を――?




 俺はこの決断が非常に大事なものになると、そう予感した。

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