第69話 その後

「起きろ、おい起きろ勇太さん」

「ん……須王さん」


 いつの間にか入ってきていた須王さんに、たたき起こされる。


「こんな時間まで寝てるとはな。朝食に間に合わなくなるぞ」


 ハッとしながら、俺は壁にあるデジタル時計を見る。間もなく9時になろうとしていた。


「服装は適当でいい。話は通してある。着替えて行け」

「ありがとうございます!」


 俺は大慌てで、ついてきたリリアンネと礼香と一緒に朝食を取った。

 部屋に戻ると、須王さんが電話でやり取りをしている。


「そうか、学長。大学内のうみも出せたか。韮山同様、潜伏していた共犯も逮捕。それに怒羅恨ドラゴンも、これまで隠していた犯罪がバレて完全消滅……俺が来た甲斐があったというものだ。おっと……」


 須王さんは話しながら、戻ってきた俺たちを見る。


「勇太さんか? すぐ近くにいるが……代わってほしい? わかった、少し待ってもらおう」


 須王さんは俺に、電話を渡す。


「学長からだ」

「はい」


 受け取ると、すぐに応答する。


「もしもし、学長」

「ああ、士道君か。警察筋から聞いたのだがね、懐王たち怒羅恨ドラゴンは全員、逮捕されたそうだ。並びに拠点も摘発し、犯罪の証拠が次々と暴かれたらしい」


 やっぱりか。昨日見たあれは、一斉逮捕だったんだな。


「同時に、大学内に潜伏していた内通者も一斉摘発した。犯罪教唆などでな。これで心置きなく、懐王兄弟かれら放校ほうこう処分にできるというものだ」


 学長の声に、喜色がにじむ。


「さて、本題はここからだ。君と佐々見さんの謹慎というか立ち入り禁止処分だが、もうやる意味がなくてね。校則にも『事態が解決した場合は、これを解除することができる』とあるのだが、君たちの意見を聞きたい。解除して今日か明日にでも来るもよし、あるいは期日いっぱいまで休息代わりに過ごすのもよし。どうしたいかね?」

「そうですね……」


 正直、学校に行く気分ではなかった。

 いろいろあって疲れたから、少し休みたかった。


「まだ休ませていただきます。慌ただしかったので、落ち着く時間が欲しいです」

「よろしい。佐々見さんは?」


 言われて、俺は電話をすぐ礼香に渡す。


「私も、休ませてください。警察署に行くことになりそうですから」

「ああ、そうだったね。必要なことだ、行ってらっしゃい」

「はい。あと、学長。忠告してくださり、ありがとうございました」

「どういたしまして」


 やり取りが終わったのを確かめてから、俺は礼香から電話を受け取った。

 そういうわけで、俺たちはどちらも期日いっぱいまで、立ち入り禁止という休息を得ることになったのである。


「さて、しばらくは君たちと話せなくなるかもしれん。厄介ごとは片付いたが、事後処理に追われるだろうからな」

「ですね」

「いずれ君やリリアンネさんと、お話したいものだ。今度はこういう出来事ではなく、ね」

「はい。俺もです」

「ああ。では名残惜しいが、須王さんに代わってくれるかね?」


 そう言われたタイミングで、俺は須王さんに電話を返す。

 まだ話し込んでいるようなので、一礼だけしてそっとその場を後にした。


 部屋の前で、礼香が話しかけてくる。


「勇太も休むの?」

「ああ。解決したって言っても、正直まだ行きたい気分じゃねぇしな」

「あくどいわねぇ」

「うっせ」


 軽口をたたきあう。それができる程度には、仲は良好だった。なんだかんだ言って、俺たちは結局、幼馴染だったのだ。


「おう、二人とも」


 と、須王さんがやってくる。


「仕事は済ませた。ここに残る必要もなくなったが、どうする?」

「俺たちは家に帰ります。もともと、そんなに長くとどまるつもりはありませんでしたし」

「私は残らせてください。現場検証が終わるまでは」


 俺たちが意見を言い終えると、須王さんは「決まりだな」と言った。




 そして支度を済ませて俺とリリアンネはホテルをあとにし、再び家へ帰ったのであった。

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