第68話 決着の夜

 それから夕食などを済ませて、俺たちは寝る準備を整えていた。

 自宅の無事が気になるが、俺たちだけではどうすることもできないだろう。だからこそ須王さんが、ホテルという逃げ場を用意してくれたのだが……やはり、もどかしさがあった。


「ゆーた、寝ようよ」

「そうだな……。けど、眠れねぇんだよ」


 俺たちの家が襲撃されるのをみすみす黙って見てろだなんて、気分はよくないものだ。


「うーん、なら私のおっぱいに顔埋める?」

「それもいいか……頼む」


 正直、気晴らしでも何でもしたかった。

 慌ただしすぎてリリアンネを見てもムラッとこないのが残念だが、たぶんこの問題が解決すれば存分にイチャつけるだろう。


「えいっ」

「むぎゅ」


 相変わらず、リリアンネのおっぱいは柔らかい。が、やはりムラッとはしなかった。

 ただ、いくぶんかは気が楽になる。礼香との話し合いを終えて心の整理が付けられたからとはいえ、リリアンネと礼香の部屋を交換してもらうのはやはり正解だった。こういうことができるのは、やはりリリアンネだけなのだ。


「んん……」


 しばし、至福の時を堪能する。

 ただ抱きしめてもらうだけで、幸せになれるのは……彼氏彼女ゆえか、あるいは“好き”の気持ちゆえだろうか。


「どっちでも、いいんじゃない? ゆーたがそう感じているのは、事実なんだし」

「そうだな。よっと」

「きゃん」


 そっとリリアンネを押し倒し、横になる。今は眠気が強いけど、普段だったらしてたんだろうな。


 ……と、俺の耳に爆音が聞こえる。


「いよいよ、来たか」


 ほぼ怒羅恨ドラゴンで間違いないだろう。ああ、ついに俺たちの家が……。


「サイレンの音も聞こえるね? ゆーた」


 ハッとして耳を澄ませると、確かにサイレンの音も混じって聞こえた。

 俺はリリアンネから離れると、急いで窓から様子を見る。


「あれは……なんて数のパトカーだよ!?」


 優に30台はあろうパトカーが、爆音を鳴らすバイクを追跡・包囲していた。俺たちの家の、すぐ近くだ。

 さらに別のパトカー群も接近し、完全にバイクを包囲した。


「まさか……捕まえてんのか!?」

「見に行く?」

「ああ!」


 眠気がすっかり吹き飛んでしまった。

 リリアンネに頼むと、すぐに俺たちは透明人間になる。そして、現場らしき場所へと急行した。


     ~~~


 あっという間に、パトカーが殺到している場所の中心にたどり着いた。駅のすぐ近くだったので、誰がいるか顔がよくわかる。


「あいつは……! 間違いない、懐王猛流だ!」


 何人もの警官に取り押さえながらも、派手に暴れている懐王。隣には、その弟らしき男もいた。

 ほかにも、次々と怒羅恨ドラゴン構成員が逮捕されていく。30分も経たないうちに、この場にいた全員が逮捕された。


 パトカーが去っていく姿を見て、俺はあっけなく思う。こんなにも、あっさり終わるなんて。


「終わったねー」

「ああ……終わった」


 正直、あっという間の出来事なので実感がわかない。これで終わったのか、とも思えていない。ただ、もう少し待てば、自然とどうなったかわかるだろう。


 気づけば、パトカーなどはすっかりと去っていて、無人のバイクだけが残っていた。これらもそのうち押収されるだろう。


「もういいな。リリアンネ、戻るぞ」

「そうだね。戻ろっか」




 ひと通り顛末を見届けた俺たちは、ホテルへと戻ったのであった。

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