第66話 犯罪教唆

「ベッドに座りな。リラックスしろ」


 部屋に入るや否や、須王さんはベッドをポンポンと叩いて俺たちに促す。


「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて」


 俺が最初に座ると、リリアンネと礼香も座った。

 須王さんはパソコンを取り出して、俺たちに画面を見せながら話す。


「結論から言おう。韮山はもう、逮捕された」

「逮捕?」


 やけに早い話だ。うさんくさいとは思ってたが、まさか逮捕とは。


「何があったんですか?」

「犯罪教唆だ。おっと、直接の原因は暴行未遂だったか。今朝話した、『懐王猛流と話してる動画』あったろ?」

「はぁ……」

「あれを見せたら、目に見えてうろたえだしたんだ。その動画には、『韮山やつが懐王猛流に、礼香さんの住所を漏えいする音声』がはっきり残っていてな。紛れもない犯罪教唆の証拠だ。それを突きつけたらヤケを起こして暴れたが、俺が鎮圧した末に御用さ」


 須王さん……ただ者じゃないとは思ってたけど。やっぱり、武術というか何というか、戦う力もあるのか。


「とまあ、これで捜査を妨害する奴は消えた。他にも似たようなことをしでかした奴らが、芋づる式に解任されるだろうな。すでに学長は権限を発動した」

「じゃ、じゃあ……」

「だがな」


 安心しかけた礼香を、須王さんがさえぎる。


「そうなる直前、韮山は懐王たちに、勇太さんの住所を漏えいしている」

「ッ……」


 今度は俺か。やはり何かしてくるとは思ってたが……。


「だから俺は、追加でホテルの部屋を用意したってワケだ」

「えらく手回しがいいですね……」

「当たり前だ。士道家の専属弁護士ってのは、SPみたいなこともする。何が何でも、士道家の人たちを守るってのが俺の仕事だ。当然、勇太さんも守るさ」


 須王さんは、力強く言い切った。


「ああそうそう。渡した鍵が2つなのは、人数を間違えたワケじゃないぜ。2402がシングル、2403がダブルだ。ほら、これで3人分だろう?」

「確かに、人数はあってますけど……」


 頼れると思った次の瞬間にはこれだ。お茶目なのか、わざとなのかよくわからない。


「ま、これは俺なりの意図があってやってるのさ。三人部屋もあったんだが、それだと困るかもしれなかったからな」


 須王さんは、悪びれもせずに言った。


「ひとまず、今日はここに泊まっとけ。ホテルから離れんのも、なるべくするな。何が起きるか、わかんねぇからな。食事もケータリングサービスにしろ、料金は俺が全部払うからよ」


 やっぱり心強いな! 豪胆な行動に、俺は舌を巻いてしまった。


「話としちゃ、そんなとこだ。何か相談したいことはあるか?」

「俺からは何も……」


 それだけ言ってリリアンネと礼香を見る。二人もやはり、この他には特に気になったことはないようだ。


「なら、これを渡すか」


 須王さんは俺に2403の鍵を渡し……迷いだした。


2402これ、どっちに渡しゃいいんだ? 順当に考えるなら、礼香さんなんだが……」

「私にください」


 申し出たのは、リリアンネだった。


「いいのか? 俺は知らねぇぞ」

「はい。ゆーたには、れーかと一対一で話し合ってほしいことがありますから」


 ああ、そっか。

 決着をつけることがあるんだったな。


「俺も同意見です。リリアンネに、貸してやってください」

「わかった。二人にそう言われちゃ、そうするしかないわな」


 須王さんは、リリアンネに2402の鍵を渡す。


「そんじゃ、今度こそ自由にくつろいでくれや」


 そして、作業に戻りだす。


「行こう、礼香。今までの事件とは別に、話したいことがある」

「うん」




 俺は礼香を連れて、2403に入った。

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