第60話 オンライン事情聴取、開始直前

 翌日。


「うあー……寝不足だぜチクショウ」


 深夜の爆音に、何度もたたき起こされた。今どき珍走団ちんそうだんなんているのかと思ったが、いたのだ。

 エンジン音を深夜にブオンブオン響かせていたので、もろに影響を受けて寝不足である。一応耳栓とかで対策はしたけど、眠れたもんじゃなかった。


「おはよう、リリアンネ」

「おはよ、ゆーた」


 と、壁の向こうからドアで通り抜けてきたリリアンネと会う。特に寝不足な様子はなかった。


「お前、よく眠れたな?」

「うん。非常用の休息装置で眠ってたし」


 休息装置? ああそういえば、ピンク色の装置がいくつか置いてたな。そのうちのどれかか。


「そーだよ」

「って、ベッドの意味ないんじゃ……?」

「あれはれーかに貸したの。ひと段落するまでね」


 そうか、使わないならそのまま貸せるもんな。


「そうそう、今日から調査でしょ?」

「ああ。つっても、俺たちは学校にゃ行けないけどな」


 学長からはっきりと、“うちの敷地に足を踏み入れないでくれ”と言われたからな。破れば厳罰間違いなしだぜ。


 だからこそ、須王さんがいるんだけどな。俺たちの家の専属弁護士だ、普通に頼むより真剣にやってくれるだろう。

 ひとまず、スマホをチェックする。


「あー……大家さんと学長からメールだ」


 メールを開く。

 大家さんからは『珍走団怒羅恨ドラゴンに注意』、学長からは『午前9時半からリモート事情聴取』とある。

 ちなみに怒羅恨ドラゴンとは、この幕浪地区周辺を根城にしている珍走団だ。半グレと近しいとも、あるいは半グレそのものとも呼ばれている。とりあえず危険な奴ら、とだけ俺や大家さんたちは認識している。


 問題は学長からのメールだ。

 タイトルだけでだいたい説明が済んでいるようなものだが、ルームコードと解錠キーが必要なのできっちり目を通す。


「……よし」


 お気に入り登録して、メールタブを開きっぱなしのままスマホをスリープさせた。これですぐには消せないだろう。


「さて、礼香起こして朝食にするかな」

「うん!」


 俺は朝食を作ってから、礼香を起こして食事にした。


     ~~~


「「ごちそうさまでした!」」


 食欲は普段より落ちているが、ないわけでもなかった。昼まではもつだろう。

 皿洗いを済ませ、パソコンを立ち上げる。


「そろそろ時間だな」


 見れば、9時20分。まもなく指定された時間だ。

 俺は礼香とリリアンネを呼び、近くに座らせる。


「さて、と」


 通話ソフトを立ち上げ、コードとキーを入力して開いた。

 しばらく待っていれば、じきに始まるだろう。待っている間に、礼香とリリアンネに確認を行う。


「昨日言ったことをそのまま話す……のは、大丈夫だよな?」

「うん。ただ、それだけで終わると思えないんだけど……」


 礼香も不安そうだ。こんなことになっちまって、災難だったな。


「そうなったら、知る範囲で答えればいい。弁護士の須王さんも、協力してくれるってさ」

「う、うん……」


 これだけじゃ不安はぬぐえないか。当然だろうけどな。

 とにかく、俺たちはやれることをやるしかない。そして俺がキャンパスに立ち入れない以上、学長に直接話せる機会が多いのは須王さんだ。




 俺たちが待っていること数分――相手のソフトが起動し、学長の顔が映りだした。

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