第61話 オンライン事情聴取

『おはよう。よく眠れ……ていなさそうだね、士道君?』

「おはようございます、学長。散々でした」


 画面の向こうで、学長が呼びかけてくる。


『さて、いきなり事情聴取に入りたいところだが……昨日、君の弁護士を名乗る人がいてな』

「須王さんですか?」

『そうだ。もっとも確認したところ、特に不審な点はなかったので参加してもらってるよ』


 言うが速いか、須王さんが画面の奥に映り込む。特にアピールはしてこないが、見える位置にはいた。


『それを踏まえて、だ。録画・録音もさせてもらう』

「はい」


 当然の処置だな。証拠として使う以上、記録の保持は大事だ。


『佐々見さんとリリアンネさんもいるね?』

「もちろんです」

『では、問題ない。始めさせてもらうよ』


 前回同様、事情聴取が行われた。


     ~~~


『以上だ。もう部屋から出ていいよ』


 さほど時間をかけず、事情聴取が終わる。

 学校で証言した内容をそのまま繰り返しただけだ。


「ありがとうございまし……」


 俺が出ようとした、そのとき。


『何勝手な真似をしているんですか、学長!』


 やかましい声が響いた。


『勝手な真似だと? いくら君でも、口には気を付けたまえ』

「それは学長です! 誰ですか、この部外者は!」

『須王だ。当事者の一人から依頼を受け、許可を得てこの一件の調査に関与させてもらう』

「そんなことは――」

『これでも弁護士だ。あまり事を荒立てるな。こちらの仕事が増える』

「ッ……」


 画面の向こうが、一気にうるさくなる。

 そういえばあんな顔の講師……いたな、一応。ほとんど顔、覚えてねーけど。


「ゆーた」


 と、リリアンネに小声で話しかけられる。


「ん?」

「切り忘れたフリして、聞いてなよ」

「わかった」


 リリアンネが言うなら間違いない。静かに、事の成り行きを見守る。


『とにかく、学校に部外者を……』

『部外者じゃない。こちとら正式に依頼を受けた、代理人だ』


 あーうっせ。音量下げちまえ。

 学長に遠慮なく話せるのは立場が高い証拠なんだろうが、それにしても感情論ばかり叫んでいるように聞こえるな、こいつ。いい大人がそこまで必死こいて叫ぶか、普通?


『そういうわけで証拠も集めるし、その結果犯罪行為を行った確証があれば法的措置も実行する』

『そんな勝手なことを!』

『許可は取っている。それに俺の職業は弁護士だ。敢えて言おう、法律の本職だと』


 耳ざわりなあの講師にも、須王さんは落ち着いて対応している。ああいう人こそ、尊敬できる。


『それとも、調査されて困ることでもあるのか?』

『くっ……!』


 須王さんがそう言うと、例の講師は去っていった。


『おっといけない、消し忘れていた』


 学長はわざとらしく呟く。今の騒ぎはバッチリ録画されていた。


『須王さん、捜査妨害にはご用心を』

『心しています』


 最後にそう話すのが聞こえて、俺たちはルームから強制退出させられた。


     ***


「今日は終わりらしいな。お疲れ、礼香」

「うん……お疲れ」


 リリアンネの部屋に戻っていく礼香。まだ疲れが取れていなさそうだった。


「ね、ゆーた」

「ん」


 と、リリアンネがまた話しかけてくる。


「ゆーたがうっとうしがってた人、いたよね」

「ああ」

「気を付けたほうがいいよ。あの人、一度だけ苦しまぎれに反撃してくるから」

「反撃……?」




 言葉の正確な意味はわからなかったが、これが警告であることだけは把握した。

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