第19話 動揺
礼香のやつ……このタイミングで、どういうことだ。
「ゆーた?」
まずいな。この話は後回しだ。
「いや、なんでもない」
「そっか」
何とかごまかせたようだ。
俺は『悪い、しばらく待っててくれ』と返してから、いったん食事に意識を切り替えた。
~~~
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまー」
食事が終わるや否や、俺は皿洗いに注力する。
なるべく早く切り上げて、礼香からのメッセージに返信する。けど、その前に。
「リリアンネ。胃が落ち着いたら、お風呂入っててくれ」
「はーい」
リリアンネを入浴させておかないとな。
さて、それまではどう時間をつぶしたものか。今リリアンネに話しかけるのは、何となく気が乗らない。
若干気まずいような雰囲気の中、俺は新作エロゲーをチェックする。
まだ予約段階のものや発売したばかりの作品など、ずらりと存在する。こうして事前情報を掴んでおかないと、とんだ地雷を踏み抜きかねない。
けど、普段楽しいはずのエロゲーリサーチすら、いまひとつ集中できなかった。
山盛り積まれた石から宝石を探し当てる高揚感も、雑念が入っちゃ半減だ。
などと中途半端な気持ちでいるうちに、リリアンネが「お先にー」とお風呂へ入っていく。
完全に扉を閉めたのを確かめた俺は、ようやくため息をついた。ここからが本番だ。
案の定、礼香からのメッセージを示す通知が来ていた。
すぐに『悪い、待たせた』と書き、それから文面を読む。
『本当にイギリスから来たの? えらく日本語が
案の定、疑われていた。
女性はカンがいいと聞くが、礼香もその例外ではなかったわけか。
俺は少し迷ってから、『あいつは、小さい頃から日本語を話していたらしいからな。よっぽど日本が好きなんだと』と返す。
我ながら苦しい言い訳だ。そもそもでっち上げた話である以上、どこかでボロを出すかもしれない。
だとしても、リリアンネが異星人であることを軽々しくバラすわけにもいかない。既に異星人の存在は認知されてるとはいえ、いまだ数少ない事例だ。つまりレアな出来事といえる。
うかつに大々的に話そうものなら、面倒ごとが起こるのは目に見えている。リリアンネが望まない限り、そんなことには巻き込みたくない。そしてリリアンネは多分、そんなことは望んでないと思う。
「つってもなー……。ぶっちゃけ、一介の大学生だぞ俺? どこまで隠せるかなー……」
リリアンネが異星人である事実は、たぶんそのうちバレるだろう。それも、思わぬところからバレるかもしれない。
が、まだわかりもしない先の話なんてしてられない。今は隠していられるが、そのときはそのときだ。
「ふあぁ…………。ん」
スマホを見ると、通知が来ていた。礼香からの返信だ。
『そっか。なら、流暢なのも納得かな』
どうにかごまかせたみたいだ。少なくとも今は、だけど。
俺はひとまず安心し、スマホを置いて――
「なにしてたのー?」
「ちょ!?」
声に振り替えれば、バスタオル一枚を巻いただけのリリアンネがいた。
いちおう胸などは隠れているものの、大きさゆえにバスタオルの下から主張し続けている。
「なんてカッコしてんだ!? は、早く服を着てくれ!」
「えー、寒くないからいいよー」
「よくねえ!」
主に俺にとってよくなかった。
リリアンネがリリーの姿をしているのは今さら言うに及ばずだが、原因はきっとそれだけじゃない。ぶっちゃけ母親以外で、風呂上がりの女性を見るのは初めてだった。
何というか、いい匂いがするからだろう。エロゲーでは味わえない感覚だ。まさか俺の“男”の部分をここまで刺激するなんて。
「それよりゆーたー。深刻そうな心が見えたけど、だいじょーぶー?」
「ああ、大丈夫、大丈夫だから!」
またリリアンネを遠ざけないと、俺は何をしでかすかわからない。正直抱きつきたいけど。今すぐギュッてしたいけどっ!
とにかく今は早く――
「ぎゅーっ。ゆーた大好きー」
「ふぇあお前っいったい何してっ!?!?!?!?」
ここまでの暗い思考はどこへやら、俺は心臓の鼓動が早まるのを確かに感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます