大学

第12話 来ちゃった

 月曜日。

 間もなく冬休みではあるが、まだ授業が残っている。


 世間一般において憂鬱な日とされている月曜日だが、今の俺には不思議とそれが強く感じられた。

 ありていに言って、リリアンネと一緒にいたいのだ。


 一昨日出会ったばかりだというのに、俺は不思議と彼女の人柄に惹かれていた。肯定的な性格で、俺の頼みも聞いてくれて、しかも俺を好きでいてくれる。

 好意には好意で返したくなるのが、性分しょうぶんだ。


 そうは思いつつも、大学には行く。

 面倒と言えば面倒だし、相変わらずつまらないという感覚はぬぐえないが、単位はきっちり取っておきたい。

 仮にも俺が頼み込んで、大学に行かせてもらったのだから。


 ……などということを思い浮かべながら、俺は体をゆっくりと起こした。隣では、リリアンネがすやすやと眠っている。


 同じくらいに寝たはずだけど、よく眠っている。

 それに、寝顔も可愛らしい。もうしばらく見ていたいくらいだ。


 だけど、空腹は感じる。

 こればかりはどうしようもないので、俺は名残惜しくも、朝食を作ることにした。


     ~~~


 朝食を作ると、リリアンネが起きてきた。

 ご飯の匂いが目覚ましがわりらしい。


「おはよー、ゆーた」

「おはよう」

「朝食作ってくれてありがと」

「どういたしまして」


 相変わらず、いい笑顔だ。こういうのを見ると、なぜか守りたくなってしまう。

 よく晴れた空と相まって、あたたかい気持ちになった。


「それじゃ、食べるか。いただきます」

「いただきまーす」


 今日は昨日と違い、ちゃんと温かい朝食だ。

 さて、リリアンネの感想はどうだろうか……?


「うん、おいしい!」

「そりゃ何よりだ」


 昨日までと変わらない笑顔。

 やはりこういう表情を見ると、何度だって作りたくなるものだ。


 さて、見たいものも見たことだし、早めに食べるとしよう。今日は通学する必要があるからな。

 俺はやや急ぎめのペースで、朝食を食べきった。




 それからは片付けや身支度を終えて、残すは大学に向かうだけになる。

 異星人とはいえ女性を一人にするのは良心が痛むが、仕方ない。マンションのセキュリティはしっかりしているから、それに任せるとしよう。


「それじゃ、俺は大学がある。留守番しててくれ」


 それだけ言い残す……と、なぜかリリアンネは返事をせず、ただ微笑んでいた。


「どうしたんだ?」

「何でもないよ、ゆーた。行ってらっしゃい」

「ああ」


 俺は靴を履くと、きっちり鍵を閉めて家から出た。

 エレベーターで1階まで降りると、ゆっくりめに歩く。


 余談だが、落ち着いた気持ちでのんびりと通学したいために、俺は早起きしている。

 こうするとのんびり歩きながら考える時間もできるし、何より間に合うという安心感があれば、何かあっても落ち着いて対処できる。


 冷静さというのは心強いものだ。このまま歩けば、もうすぐーーん?

 なんか、嗅いだことのある匂いが……って!


「やっほー、ゆーた。来ちゃった」

「リリアンネ!?」


 案の定だ。

 待て、留守番してるんじゃなかったのか!? つーかどうやってここまで追いついてきた!


「うーん、異星人パワー……かな?」

「なんだそりゃ!」


 まったく意味がわからない。

 エレベーターには乗ってなかったし、鍵を閉めるときはちゃんといるのを確かめてから閉めたぞ!


 まさか……鍵を開けて、ここまでダッシュで来たのか?


「ううん、違うよ。鍵は閉めたまま」


 嘘だろ!? じゃあどうやって!


「五次元の姿になってからここまで来たの。たいした距離じゃなかったな」


 なんだそりゃ!


「ゆーたには……ううん、人間には知覚できない姿だよ。んー、わかりやすく言うとすると、幽霊……かな?」

「幽霊……?」




 俺はいつの間にか足を止めて、リリアンネが家から1kmほど離れたこの場所まで来た方法を聞くのに、すっかり必死になっていた。

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