推しているエロゲーのヒロインの姿をした彼女は異星人だったんだが? ~銀髪爆乳全肯定な彼女との甘々な日々~

有原ハリアー

出会い

第1話 冬の海浜公園で

「やっぱり来た。あなたを待ってたよ」

「!?」


 テトラポットの見える冬の浜で。


「私は遠い星から来たの。あなたを探しに」


 俺は見ず知らずの、いやエロゲーで見たキャラにすごくよく似た女性に、いきなり突拍子もないことを言われていた。


     ***


 こうなる少し前。

 俺こと士道しどう勇太ゆうたは、大学から帰る道すがら、心の中で激しく退屈していた。


 理由は簡単だ。

 大学の授業に飽きたし、ついでに打ち解けるクラスメートもほとんどいなかった。有り体に言って、退屈をつぶす手段が無かったのだ。


 授業は簡単で、出席と課題、それにいくらかの発言をすれば簡単にS――最高評価――を取れてしまう。落とした単位もまったくなく、傍から見れば順風満帆だろう。


 だが、だからこそ退屈だった。

 手ごたえのある授業がないというのは、当事者からすればここまでヒマなものかとは思わなかった。


 そして、価値観の噛みあうクラスメートも数えるほど。

 傲慢かもしれないが、どいつもこいつも幼い。時間は守らず私語も多く、見ているこっちがうんざりするほどだ。おかげで自然と一人になる機会が多く、世間一般の「キラキラ大学生!」というイメージとはかけ離れている。


 さらに、女子は女子で、どうにも受け付けない。けばけばしいと言うのだろうか、化粧が濃い。女性が化粧をするのは仕方がないとはいえ、いまいち不出来な仮面を付けたような違和感があった。


 ここまで女子をけなしたわけだが、別に嫌いなわけではない。見えてしまうからうんざりしているだけなのである。

 率直に言って、俺は3次元への恋愛に興味がない、と言われるタイプだ。

 ステレオタイプなオタクとは違うものの、俺はギャルゲーやエロゲーが好きだ。得たバイト代のうち、少なくとも3割は必ず充てる。恵まれたことに、俺や俺の一家は、学費や家賃でまったく困っていない。だからこそできる贅沢だ。


 閑話休題、おわかりいただけただろうか。俺は2次元女性が大好きなんだ。

 特にエロゲーの美少女は、いつでも全肯定してくれる。主張するべきことは主張するけれど、それでも基本的には、俺に寄り添ってくれる。正確には「主人公に」だけど、それはいい。俺は自分自身を主人公に投影しているから。


 そういうわけだから、大学から帰る途中も、エロゲーのことで頭がいっぱいだった。

 バイトのシフトもまだ数日先だ。遊ぶ時間はたっぷりある。


 けど、俺は無性に歩きたい気分になった。

 帰り道には、県内で有名な海浜公園がある。こんな冬だから人はいないけど、だからこそ歩く気が起きた。

 静かな雰囲気で、ゆっくり気分を落ち着けたかったんだ。


 俺はいつもの帰路とは逆の方向に、足を進める。

 都会的な街並みがどんどん遠のいて、静かな冬の海が見えだす。


「やっぱ、落ち着くな……」


 大学で一人になる機会が多かったのか、あるいは元々一人が好きだったのか。

 今となってはどっちでもいいものの、とにかく人気ひとけの少ない砂浜が、俺の求める空気にぴったりだった。


 靴が砂だらけになるのも構わず、ザッザッと音を立てて足を進める。

 ここだけ別の世界のように、静寂とわずかな足音が俺の心を落ち着ける。


 砂浜のあるところまできて、俺は足を止めた。

 海を眺めるためだ。


 水平線の向こうまで見える、まじりけない清浄な海。

 遠目にはいくらかの工業地帯や煙突から吐き出される煙も見えるが、そこまで主張は激しくなかった。


 しばし景色を楽しんだ俺は、散歩を続けようとし――視界が違和感を捉えた。


 あんなところに、人、いたか……?


 遠目だが、はっきりと見える。髪は白……いや、銀色。

 コートを羽織って、突き出したコンクリの足場の上に立っている。


 その美しさとはかなげな雰囲気に、俺は思わず息をのんだ。


 あまりかかわり合いにならず、そっとしておくべきなのかもしれない。

 しかし俺は、その人に惹かれたかのように、一歩、また一歩と近づく。


 気づけば俺は、すぐ近くまで来ていた。顔がはっきりと見え、言葉を交わせばお互いやり取りできる距離だ。


 女性が俺を見た。驚いたり、怪しんだりするそぶりはない。

 その姿は何となく、思い出深いエロゲーのメインヒロイン、リリアンネに似ていた。


 俺はドキッとする。話しかけてもいいのだろうか。

 しかし、リリアンネには今までずっと憧れていた。美しく可愛さも併せ持ったエロティックな姿はもちろん、彼女の性格にもだ。


 しばし迷った末、意を決して声をかけた。


「海、綺麗ですね」

「そうだね。うふふ」


 あっけに取られてしまった。

 いきなり話しかけたら、普通は気味悪がるものだ。けどこの女性は、まったくそんな様子を見せない。かと言って適当にあしらったかと言われれば、そんな感じでもない。

 まるで友達に話すように、光を穏やかに照らし返す銀の髪をたなびかせながら、彼女はごく自然に俺へと返したのだ。ソプラノの、聞くものを落ち着かせる声で。


 と、次の瞬間。


「やっぱり来た。あなたを待ってたよ」

「!?」


 信じられないことを口にした。まるで俺がここに来るのを、知っていたかのように。


「ふふっ、驚いてるねー。何で当たったか、知りたい?」

「何なんですか、貴女は」


 ワケが分からなかった。

 この海浜公園に寄るのは本当に気まぐれで、いつも来ていたわけじゃない。仮に彼女が俺のストーカーだとして、俺を待ち伏せるにしても、もっと確実に立ち寄る場所があるはずだ。


 彼女の行動に戸惑っていると、声が聞こえる。


「答えを教えてあげよっか。私は遠い星から来たの。あなたを探しに」


 ますます意味が分からなかった。

 と、彼女はさらに言葉を続ける。


「遠い星の向こうから、ずっと見てたよ。あなたに出会ってから、ずっと」




 突然の告白に、俺の思考はしばし止まっていた。

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