Short Sleeper
しゃらんと鈴の音。どこからとなく聞こえたそれは懐かしい様な、私を安心させる様なそんなものだった。
「覚えて……る、かな」
背後から聞こえた特徴的な話し方。誰だか瞬時に理解できた、けれど反射で、えっ誰?と口からこぼれた。視界をずらしながら身体ごとゆっくり振り返る。
「あ、葵、だよね?」
「あってる、けれど……ほんとは、少し……違う」
「見た目は……いつもと一緒だけれど?」
ブレザーの制服、綺麗な宝石のついたネックレス。それが彼女のいつもの格好。
「これ、見ても……言える?」
身につけている制服をぺらりとめくる。
「葵っ!?羞恥心を持ってと何回言ったら……え?身体がない?」
「さっき言った……あってる、けれど違う」
同い年なのに圧倒的頭脳と身体能力で全ての天辺をかっさらっていった青瀬葵はもういないのだと再認識させられる。
「純、なんで……悲しんでる?」
「葵とはもう会えないんだなぁって」
「今、会えてる」
葵には珍しい力強い口調。だからこそ私はわかってしまうこれが幻だと。いま私はどこにいる?わからない周りの情報が入って来ない。
「純に魔法……かける」
「魔法?葵、魔法使いだっけ?どっちかっていうとハッカーよりのクラッカーじゃない?」
葵がおもむろに自身の首の後ろに手を回す。
「……間違ってない」
けれど、と葵はその宇宙色の目を細めて笑う。
「人間は全員、可能性って言う魔法……使える」
葵がいつも首につけていたラピスラズリをこちらに投げる。
「次は純の番だから……ね。連絡」
待ってる。
――覚醒。自分の今の状態、自室、布団の上。そして確かに手のひらに何かを握り込んでいる感覚。
「葵……」
三年前の今日に消えた葵と夢で会った。それがただの夢だと、幸運だったと片付けて良いのか。それはラピスラズリが知ってる、のかもしれない。
*
ラピスラズリの導きと思うのが分かりやすくて、その上、ロマンチック。夢で片付けるなんて、そんなの。
ふわとスカートが舞う。私の目へ葵のスカートの中身が映った。しかし葵は特段気にする様子も無くクロスワードパズルの問題を呆ける私へ向かってずらずらと並べ立てる。
水性ペンへ水を垂らしたような葵のりんかくが段々くっきりとして答えを促す目もくっきりとした。あらゆる問題が右から左へ抜けるくせのある私はううんと唸り、この場を切り抜ける方法を検討し、
「あっ、てか、スカート。ふんふん。成程ネェ。今日の葵ちゅんの下着は羊ちゅんかあ……って違あう。駄目でしょ!」
「純だけ……だから」叱る気を失せさせる天才である。「……答え……」
その上忘れなかったらしく答えを促して来る。訊き返すか、と思案し始めるとしゃらんと音がした。……ラピスラズリの……。「あっ」とわざとらしく大きな声を上げる。
「先輩が要る」
きょろきょろと葵が、私と葵以外無人の学校内を見回した。くるりと後ろを向き、私はもっと別の所から来た私を見付ける。何時も、安心したような顔をして私たちをかくれて見て居る。でもね。
「……純……もう一度教えるね……」
「バレたか。パードゥンパードゥン」
あっ宇宙人ネタと当たりをつけ冊子も見ず問題を暗唱する。でもね。君と同じで私が、ラピスラズリを持ってて夢で、どうしたって夢であって、葵のラピスラズリ、君と同じで私が持ってる。
それでも知らぬまま安心をしてくれたらと思うよ。何時か自分も何処かの世界を覗く折り一方的な幸せへ浸れるよう。
葵が口を閉じてわくわくとした顔で私を待つ。矢張り聞き逃してううんと唸り服の上からラピスラズリの凹凸へ触れた。幸せな夢から自ら醒める。
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