記憶をめぐる、彼と少女の物語

葛生 雪人

序章

 一歩目はいつだって不安でしょうがなかった。

 つま先の、指の先すら近づけるのをためらって、湖面すれすれまで近づいてから決心が揺らぐ。

 しばらくその体勢で静止したら、最後の一歩は運か勢いだ。

 たいていの場合、片足で立つ姿勢に耐えきれなくなって、つま先どころか、スネの辺りまでどっぷり浸かる羽目になる。バシャッと豪快な音を立てて、水中に一歩目を踏み出すことになるのだ。

 そうして俺は思い知らされる。

 今日も俺は、俺のままだったのだと。

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