53「ウルと宮廷魔法使い筆頭です」①
ウルリーケ・シャイト・ファレルはわくわくしていた。
別世界からこちらの世界に戻って神殺しに挑む時も、胸の高鳴りを感じた。
サムと出会った時には、雷が直撃したような衝撃を覚えた。
「異世界の勇者が私をどれだけ楽しませてくれるのか楽しみだな!」
王宮の一階を走りながら、ウルを止めようとする騎士や兵士を徒手空拳で倒していく。
拳で剣を砕き、鎧を歪ませ、兜ごと頭部を破壊した。
ウルを止められる者はいない。
立ち塞がる者は敵として、すべて叩き潰した。
生きている、死んでいるは関係ない。
倒れた騎士は放っておくし、立ち上がるなら真正面から潰そう。
だが、ウルの足を止める者はいない。
「宮廷魔法使い様を呼べ! 呼ぶんだ! 勇者様はまだか!」
「そうだ! 宮廷魔法使いを、勇者を呼べ! 私が、このウルリーケ・ウォーカー・ファレルがどれほどのものか相手をしてやる!」
ウルの叫びは、槍や剣を構える騎士たちを威圧した。
彼らは戦意喪失したのか、武器を床に落としていく。
「ま、勝てないとわかった相手に立ち向かわないのは利口な判断だ。私なら、国を守る立場にいれば差し違える覚悟で戦うけどな」
「――その通りだ、侵入者よ」
両手を上げて降伏を示す騎士たちの背後から、雷が走り、彼らを焼いた。
張り裂けんばかりの絶叫が騎士たちから放たれる。
ウルが助けようとするよりも早く、次々と倒れていった。
「騎士の質が悪くて申し訳ない。こういう使えない騎士がいるから我々スノーデン王国は周辺諸国に舐められるのだ。定期的にこのように間引いているのだが、どうしても質の悪い者が紛れ込んでしまう。ままならないものさ」
絶命し、倒れた騎士たちを身につけ男が現れた。
四十を過ぎたほどの中年男性だ。
痩身で、白髪混じりの髪を後ろに流している。
「…………お前は?」
「おっと、失礼。女性に名乗り忘れるとはお恥ずかしい」
金のかかってそうなスーツを身につけた男は、騎士の死体の上で優雅にお辞儀をした。
「私の名は、エフセイ・スマーギン。偉大なるスノーデン王国の宮廷魔法使い筆頭であり、スマーギン公爵家当主でもある。お嬢さんのお名前をお聞きしても?」
「ウルリーケ・ウォーカー・ファレル」
「……ふむ。スカイ王国で名高いウルリーケ・シャイト・ウォーカーに名が似ているが、縁者かな?」
「さあな」
「まあいいでしょう」
エフセイは、ウルの間合いの外で足を止めた。
猪突猛進で突っ込んでくるほど馬鹿ではないようだ。
「ひとつお聞きしたい?」
「なんだよ?」
「あなたは魔法使いのようだが、なぜ野蛮な戦いをしていたのだろうか?」
「……戦いに野蛮もなにもないだろ」
「やれやれ。まだ子供ゆえに、わからないようだが……魔法使いとは、魔法を使える特権階級なのだよ。そのような我らが、わざわざ拳を痛めて戦うなど、ナンセンスだ」
「くっだらねぇ」
ウルは、宮廷魔法使い筆頭が現れたのに、今まで高揚していた感情が冷めていくのを感じた。
強い弱いなど関係なく、魔法使いとしても人としてもつまらない男だと嘆息した。
「才能はあるようだが、残念だ。せめて来世では私のように優れた魔法使いに生まれ変われることを祈っているよ」
「もうこっちは生まれ変わり済みだ」
「――あなたは光栄に思うべきだ! 雷鳴のエフセイ・スマーギンに逸脱した魔法により死ねるのだからね!」
エフセイの魔力が高まり、彼の腕から雷が迸りウルに向かった。
〜〜あとがき〜〜
ウルさんテンション下がってしまいました。
3/27に「いずれ最強に至る転生魔法使い」コミック3巻が発売となりました!
何卒よろしくお願いいたします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます