44「子供達の保護から始めます」①





 突然すぎるウルの登場に、サムの怒りが少しトーンダウンしてしまう。


「う、ウル、なんで?」

「サム……スノーデン王国を滅ぼすツアーに私を誘わないなんて、師匠は悲しいぞ」

「いや、あのね、最初は滅ぼすつもりはなかったんだよ。偵察をするつもりだったからさ」

「ほう」

「破壊神師匠はその時でいいかなって……痛い痛い痛い痛い! ちょっと、頭の形変わっちゃう!」


 言い訳をしてみるが、ウルはお気に召さなかったようでサムの顔を手で掴むとぎりぎりと音を立てて力を込めた。

 何度かサムが彼女の手を叩き解放される。

 あまりの痛みに、頭の形は無事かどうか確認してしまった。


「……楽しみだ。異世界の勇者が九人もいるんだ。この国の魔法使いは雑魚のようだが、九人も勇者がいればひとりくらい強い奴がいるだろうな」


 強者を求めるウルに応えられる勇者が果たしているかどうかサムは悩む。

 先日、サムとレプシーが倒した勇者も、正直、弱かった。

 強いか弱いかの二択であれば、強い部類に入ったが、準魔王に届かない程度の力だったのだ。

 復活した女神日比谷綾音を追い詰めたウルを相手に、この国の勇者がどれだけ戦えるかどうか。


「……ウルくんがこうやって現れることは驚きでしたが、ちょうどいい。――カル」

「はいっす!」

「こちらにいる子供たちを保護しますので、スカイ王国に転移をお願いできますか?」


 友也の提案に、カルは子供たちの数を数えると親指を立てた。


「もちろんっす! ラッキースケベ大魔王の部下を引退したあとは、夫を支えながら運送系で食べていこうと思っているんで、ちょうどいいっす!」


 カルはサムに向かってウインクした。

 友也はカルとサムを見比べると、


「……頑張ってくださいね。では、お願いします」


 応援しつつ、子供たちを託す。


「俺たちをどこに連れて行くんだ?」


 レットが不安そうな声でサムに尋ねる。

 サムは安心させるため、笑顔を浮かべて彼の肩に手を置いた。


「この国から南にあるスカイ王国のウォーカー伯爵家に連れていってもらう」

「え? で、でも」

「このお姉さんが転移で一瞬で連れていってくれるよ。お世話になっている俺の奥さんのご実家だから、安心してくれていいよ。この国の貴族と違って、とってもいい人だから」

「さ、サムのことを信じないわけじゃないけど、南の国へ行けるの? しかも一瞬で?」


 レットだけではなく、子供たちはみんな目を白黒させていた。

 同時に、子供達の瞳には期待が宿っていた。

 この国を出ることができることは、希望なのだろう。

 過酷な環境下にあった子供達にとって、別の国に行ったところで今よりも酷い目に会うことはないと考えもあるはずだ。

 家族を奪った国から出たことができる。それだけでも、彼らにとって希望になるだろう。


「そうだよ。スカイ王国も冬で雪が降っているけど、ここほどじゃない。俺たちを信じてみんなで新天地で生活をしてくれないかな?」


 サムはレットだけではなく、彼の背後にいる子供たちにも尋ねた。

 保護したいが、無理強いはできない。

 彼らが「うん」と言ってくれさえすれば――と願う。


 レットは仲間を一度見ると、互いに大きく頷いた。


 そして、サムたちに向き直り、


「よろしくお願いします!」


 頭を下げた。

 レットに続き子供達も頭を下げる。


「こちらこそよろしく!」






 〜〜あとがき〜〜

 まずは子供たちの保護です!


 27日に「いずれ最強に至る転生魔法使い」コミック3巻が発売となりました!

 何卒よろしくお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る