42「赤金茜は戦います」①
茜の記憶では、篤志は他の勇者を殺して力を得るつもりはないと言っていた。
信頼していたわけではないが、嘘をついているようには思わなかった。
だが、実際は、篤志は他の勇者を殺し、力を得ている。
得た力で騎士を殺し、メイドを痛めつけた。
いくら茜を守るためとはいえ、やりすぎだと思った。
しかし、茜は大きく首を横に振る。
メイドは茜が気に入らないという理由で騎士をけしかけた。
騎士は、理由をつけて茜を辱めようとしていた。
ならば、同情はしない。
それでも、篤志の行動を正当化もできない。
「……篤志くんは力に興味なんてないと思ってたよ」
「あー、うん。そうだね。そうだったんだけど、ほら、手に入れたものってとりあえず使ってみたいと思うよね?」
「…………」
「自分が持つ力がどんなものか理解できないと怖いじゃないか。だって、僕が望んでもらった力じゃないんだよ」
「それは」
そうかもしれないが、それだけのために人を殺すことは茜にはできそうもなかった。
「別に理解は求めていないよ」
「そう」
「でも、ほら、仕方がないことってあることを理解してほしいな」
「え?」
「だって、僕たちは望まずこんな世界のこんな国に召喚されて、寒さに震え、まともに食べるものもなくて、辛い思いをしているんだ。こんな状況から脱出するために、努力をすべきだよ」
篤志の言うことは間違っていない、と茜は思う。
むしろ、今まで境遇を嘆いていた自分のほうがどうかと思えてしまう。
それでもやはり、力を得るために人を殺すことはありえないと考える。
「僕も力なんてどうでも良かったんだけよ。これは本心さ。だけど、力を使ってみたら――これは必要な力だって受け入れることができたんだ」
「だからって、誰かを殺して力を強くする必要なんて!」
「茜さん……なにを言っているんだい?」
「え?」
「僕の力は勇者が死ねば死ぬほど強化される能力なんだよ。僕以外の勇者が死ぬことは、仕方がないことなんだ」
「――意味わかんない」
茜は篤志から距離を取る。
なにをどうすれば、そのような結論に至るのか理解できなかった。
「茜さんも一度力を使ってみるといいよ。僕たちの権利だってわかるよ」
「そんなことわかりたくない!」
「日本での日々を失ったってしまった僕たちに与えられた、権利だよ。僕たちは力を使う権利があるんだ。この世界は弱者は踏み躙られる。なら、踏み躙る側にいたいと思うのは普通のことさ」
「言いたいことが全部わからない――なんてことは言わないよ。私だってこの世界に思うことはあるもの」
「そうだよね! ――じゃあ!」
「だとしても、私は同じことは絶対にしない! 一緒にしないで!」
篤志の顔から感情が消えた。
「あーあ」
そして、心底残念だとばかりに、大袈裟に肩をすくめた。
〜〜あとがき〜〜
次回……篤志くんの本性です!
本日、2024/03/27――「いずれ最強に至る転生魔法使い」コミック3巻が発売となりました!
書店で見かけましたらぜひよろしくお願いいたします!
ネットでの購入、電子書籍の取り扱いもございますので、何卒よろしくお願いいたします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます