2「魔王ヴィヴィアンの正体です」②





「そっかそっか、ヴィヴィアン様は日本人だったか、オーケーオーケー! それで、女神がお姉さんね、はいはい了解了解。――で、あんたの姉貴のせいで大事な奥さんと子供を攫われた俺とギュンターの怒りはどこにぶつければいいんだ?」


 サムは、ヴィヴィアンの首を掴んだ。

 その気になれば、彼女の首を握りつぶすことも、食らうこともできる。


「サム、やめてください!」

「黙れ、友也! いくら友達でも、その言葉は聞けない」

「サムさん、やめてほしいっす! ヴィヴィアン様は悪くないっすから!」

「それは俺には関係ない。殺されたくなければ、あんたの姉貴の殺し方やら、攻略方法やらあるなら吐け。ないなら、俺は助けに行く」


 ヴィヴィアンが日本人であったことは驚いた。驚いたが、それだけだ。

 彼女の姉が元勇者で、女神であったとしても、リーゼとクリー、そしてふたりのお腹にいる子が攫われたことは変わらない。

 すでに女神の復活に聖女が必要であることと、クリーとサムとリーゼの子が聖女であることもわかっている。

 ならば、サムのすべきことは、夫として父親として、アルフレッド・ポーンを殺すだけでいい。


「ギュンター、行くぞ」

「もちろんさ。サムがそう言ってくれるのを待っていたよ」

「私も行くわ!」

「薫子さん?」

「向こうは聖女を連れてこいって言っているんでしょう? 私が行かないせいで、リーゼさんとクリーさんに何かあったら、私は絶対後悔するから! 絶対についていくからね!」

「危険だよ?」

「この世界はどこにいたって危険よ!」


 薫子の覚悟に、サムとギュンターは深々と頭を下げた。


「ありがとう、薫子さん」

「聖女霧島薫子殿……心から感謝を」


 ボーウッドとロボの治療を終えた薫子が立ち上がり、サムたちと一緒に部屋から出て行こうとすると、友也が叫んだ。


「ああああああああ! もう! 僕も行きます! 僕の転移が必要でしょう!」

「友也? いいのか?」

「ヴィヴィアンとカルがなにを考えているのか知りません。おそらく、これを機にアルフレッドと女神を殺そうとしているのでしょう。魔王としてそれは正しいのかも知れませんが、すみません、ヴィヴィアン。僕には世界よりも、友達が大切なんです」

「友也……ありがとう!」

「――感謝する」

「いいえ、サムには世話になっていますし、ギュンターがクリー殿に実はゾッコンだったのがわかってなによりです。今回の件が片付いたら、面白おかしく揶揄わせてもらいますよ!」

「ふっ、その時は、マクナマラくんにクリーママに手ほどきをするよう頼んであげよう」

「やめて! 死んじゃうから!」


 少しだけ、いつもの空気に戻った。


「私も行くぞ!」

「ゾーイ!?」

「なぜ私を仲間はずれにする!」


 部屋にはいなかったゾーイが、廊下から現れた。

 少し怒った顔で、彼女は続ける。


「奴とは因縁があるようだ。今更恨みやなにかがあるわけではないが、聖女が必要なのだろう? リーゼもクリーも良き友人だ。ひと肌脱ごうではないか!」

「兄貴、俺も行きますぜ!」


 ゾーイが、そして回復したボーウッドがそう言ってくれる。

 ふたりにもサムは感謝した。


「ゾーイ、ありがとう。ボーウッドも、本当にありがとう。だけど、ボーウッドは家を守ってくれ。いつ神聖ディザイア国が攻めてくるかわからない。信頼するボーウッドに家族を託したい」

「――っ、おまかせくだせえ!」


 ボーウッドが守りを受け入れてくれるのであれば、心強い。

 サムたちは、ヴィヴィアンとカルになにか言うことなく、友也の転移によって元ラインバッハ男爵領に飛んだ。






 〜〜あとがき〜〜

 その頃、王宮では。

 事情を聞いたクライドが「全面戦争じゃぁああああああああああああああああああああ!」と叫んでいた。 


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