十五章

プロローグ「ヴィヴィアンが動きます」





 最古の魔王ヴィヴィアン・クラクストンズの部屋に、準魔王カル・イーラが転移してきた。


「ヴィヴィアン様、どもっす!」

「あら、カルじゃない。久しぶりね。最近は、サミュエル・シャイトの婚約者になったような、寄生したような感じの話が伝わってきたのだけど、元気そうならなによりよ」


 まるで実家に帰ってきた娘を出迎えた母のように母性を宿した笑みを浮かべるヴィヴィアンだが、その姿は十二歳ほどで、幼くとも人形のように可愛らしい容姿をした美少女だ。

 しかし、千年以上、いや、もっと長い時間を生きる最古の魔王であり、かつて人間から吸血鬼に転化した存在でもある。


「いやー、ヴィヴィアン様にも見せてあげたいっすよ。サムさんと自分のラブラブな日々を!」


 準魔王カル・イーラは、二十歳手前ほどの華奢な美女だった。あまり手入れはしていない金髪の癖っ毛と、愛嬌のある顔が印象によく残る。

 明るい雰囲気は、その場にいる人たちを和ませてくれるだろう。

 今日も、いつもと変わらない笑顔を浮かべていたカルだったが、


「ま、挨拶はこのくらいにして、マジなお話をしたいっす」

「あら?」


 笑みを消して、感情の籠らない能面のような顔となる。

 カルの変化に、ヴィヴィアンはなにか勘づいたように、悲しげな顔をした。


「もう封印が解けてしまうのね?」

「申し訳ないっす。まさか、女神を封じた場所と、封印解除方法がこんな現代で発見されてしまうなんて思わなかったっす。おそらく、オクタビア・サリナスが発見したんでしょうけど、やっぱり殺しておけばよかったっすね」

「仕方がないわ。いずれ、封印は解けていたでしょう?」

「……限界が近づいたのは認めるっす。ですが、あと五百年、いえ、千年はいけたはずっす。それだけの時間があれば、消滅こそできなくても、力は根こそぎ奪えたはずなんすけど……」

「今もさほど力は衰えていないのね?」

「全盛期の半分ほどっすね。レプシーさんが、なりふり構わずガチで戦ってくれたらワンチャンあったかもしれねーっすけど」

「そのレプシーももういないわ。いたとしても、怒りに飲み込まれた彼が女神と戦えたかどうか疑問よね」


 ヴィヴィアンとカルは、女神への戦力としてレプシー・ダニエルズに大きな期待をしていた。だが、彼は、サミュエル・シャイトに倒され、もういない。


「レプシーを倒したあの子なら、可能性があるかしら?」

「……正直、サムさんは強いには強いんすけど、底が知れないっていうか、ガチで本気で戦ったことを見たことがないんで、なんとも言えないっす。サムさんが、明確な殺意を持って、全力で戦うのって、これからだと思うんで」

「ならば、まずちゃんと事情を説明しましょう。そのくらいの猶予はあるでしょう?」






「その前に、僕から少し話があるのだけど、聞いてくれるかな?」






「――っ」

「――え? ギュンターさん!? なんで!? 王宮にいるはずじゃ」


 突如として、部屋に現れたギュンターにヴィヴィアンはもちろんカルも気づけず驚きを禁じ得ないようだった。

 そんなふたりにいつものにこやかな表情を浮かべていないギュンターは、淡々と告げた。


「話のすり合わせをしよう。言っておくが、拒否権はない。君たちは、僕に持っている情報をすべて渡したまえ」





 〜〜あとがき〜〜

 十五章が始まりました!

 いろいろ秘密が明かされていくのでお楽しみに!


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